odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

東川篤哉「館島」(創元推理文庫)

 サマリーを書くのも面倒なので、版元の紹介文を使用。

「天才建築家・十文字和臣の突然の死から半年が過ぎ、未亡人の意向により死の舞台となった異形の別荘に再び事件関係者が集められたとき、新たに連続殺人が勃発する。嵐が警察の到着を阻むなか、館に滞在していた女探偵と若手刑事は敢然と謎に立ち向かう! 瀬戸内の孤島に屹立する、銀色の館で起きた殺人劇をコミカルな筆致で描いた意欲作。驚愕のトリックが炸裂する本格ミステリ!」

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 事件関係者は、未亡人の三人の息子(いずれも母が異なる)、建築家の所有する建設会社の副社長、建築家の若い主治医、異形の別荘を取材に来た建築専門のフリーライター、建築家が懇意にしていた県会議員の娘、最初の事件で初動捜査を担当した若い粗忽な刑事、未亡人の知り合いの女性探偵。館にいるのは未亡人に、土地を売った漁師の息子で今は執事の中年男性。娘をめぐって三人の息子が角突き合わせ、フリーライターは別荘建築に違法があったのではないかとひそかに調査を進めていて、県会議員はその汚職にかかわったのではないかと疑いがあり、執事は安く売った土地が高く転売されたことを根に持っているのではないかと、まあ疑惑のオンパレード。ありすぎる動機。
 異形の別荘と呼ばれるのは建物が六角形をしていて、中央に螺旋階段がついていること。最上階には展望台があるが、見晴らしはよくない。天才はなぜ中途半端な建物を作ったのか。それもあと数年で、瀬戸内海を縦断する巨大な橋が架かるというのに。そして台風が近づいた中、長男が最上階の密室で殺され、フリーライターがどこから転落したのかわからない謎の転落死(和臣の死の状況に酷似)する。粗忽で頭の悪い刑事は、若い女性二人(探偵と娘)の協力を得て、ずっこけ捜査につく。
 全体350ページは、手元にできた3時間を楽しむにはよい厚さ(最近のエンタメは長くていかん、このくらいのサイズのコンパクトなものにしてくれ)。
 俺のようにすれっからしになると、先行作品は何かということばかり考えてしまう。解説では綾辻行人十角館の殺人」を挙げている。ああ、そうか。自分はこのブログですでに取り上げた別の作品を思い出したし、ほかの人気作も思い出した。それに有名なマジシャンでも同じ趣向をしたのがあったなあ。
 この趣向は海外作では思い当たる例がないのだけれど、この国ではミステリーのないころからあったりした(曲亭馬琴滝沢馬琴)「南総里見八犬伝」)。時代劇映画でもときおりあった(「旗本退屈男 謎の紅蓮塔」1957年)。そういう発想を生む文化の下地があったのだろう。なので、謎解きの説明で読者に「どひゃー」といわせたいと思われた伏線も、それが出てきたときに俺はすぐに気づいてしまったのだった。
 もうひとつの先行作品はストーリーの下敷きになったもので、スカーレット「エンジェル家の殺人」。奇妙な館(エンジェル家は一つの屋敷を分割して二家族が使う)に住む家族たちが、死んだ当主の遺産を巡って深刻に対立し、部外の探偵がプライバシー無視で捜査を進め、物証がないものだからコンゲームをしかけ、犯人を暗闇で待ち伏せする。乱歩もこのストーリーを気に入ったくらいだから、のちの人が再利用をするのも無理はない。
ロジャー・スカーレット「エンジェル家の殺人」(創元推理文庫)
江戸川乱歩「三角館の恐怖」(創元推理文庫)

 あと書かれたのは2005年だが、事件があったのは1980年代半ばとされる。携帯電話やネットがあると、嵐の中の孤島・吹雪の山荘というテーマが使えないからね。それでも嵐の二日後には警察が来るというタイムリミットがあるので、事件はとても駆け足で進みました。21世紀のエンタメではこの速さになるのも仕方ない。いつもの感想だが、謎解き探偵小説はパロディや異世界でないと、21世紀には書けないのだね。