odd_hatchの読書ノート

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林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-2

2021/02/22 林茂「日本の歴史25 太平洋戦争」(中公文庫)-1 の続き

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 治安維持法国家総動員法によって日本を運営する<システム>@カレル・ヴァン・ウォルフレンの外にいる人たちは、政治決定に参加することができなくなった。選挙があっても、政党が解党してひとつにまとまった大政翼賛会からの立候補者ばかりとなると、腐ったリンゴからどれかを選ぶ程度のことしかできない。それでも反抗する少数の人々を抑圧し続けた結果、人々は口を開かなくなるか、翼賛体制に「自発的に」参加するか。上の意向をくんだ後者の人々が民衆や大衆を威圧する小さな<システム>を作り上げていく。
 日本の<システム>は明治維新のときから、民衆を蔑視・嫌悪している。もともと民衆の支持のない士族・華族をもとに、ブルジョアや軍人たちが寄り集まったものだから。大衆や民衆を信用していないから治安維持法になり、彼らを収奪するために国家総動員法になる。しかし全面戦争の局面になると、民衆や大衆の賛歌が必要になり、民衆や大衆を扇動し脅迫して、戦時統制に参加させる。欧米は民主主義や自由主義が国民を統合する理念になるが、日本にはそのような合理的な理念はない。尊皇という概念とヘイトスピーチを統合のシンボルにするが、その非合理さが<システム>の運営を損なう。典型的なのは御真影教育勅語軍人勅諭などの物神化。神格化された紙きれのために命を失う人がでる。
(大衆、民衆嫌悪は、国内の労働力不足を女性未成年者でまかない、長時間労働を強制するに見える。ほかに、徴兵制は「公平」に行われたために家族制度を破壊し、国内生産性を下げる。技術者、熟練労働者、研究者をいっしょくたに一兵卒にしたので、軍隊の効率を下げる。最悪は、海外占領地での民間人の犠牲強要と自爆特攻。大衆、民衆の命は軽い。しかし<システム>の中の人命は尊重される。)
 戦局が悪化し、物資が乏しくなり、長時間の労働を強要されるようになると、人々の参加意欲は失われる。ただ、それが抗議や反抗で現れるのではなく、怠惰やサボタージュで現れるのが日本人。国内の労働者は最悪の時月間の労働時間が450時間になったが(それって21世紀のブラック企業の労働時間と同じで、過労死の危険があるレベル)、食糧物資が乏しくなった時、買い出しその他の理由で一斉に出勤しなくなったのだって(まあ、東京の3月以降は出勤しても資材や電力の不足でやることがないし)。生き延びた特攻隊員も任務がないかわりに、援助がないから、終日ふてくされていたというし。公共や活動(@アーレント)などを共有していないと、抵抗のかわりに怠惰やふてくされとなって現れる。それがリアルに描写されているのが大岡昌平「俘虜記」)
大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-2
大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-3
 明治維新以来、日本は先進国入りを目指してブロック経済圏を作ろうとしてきた。封建制国家が多い中でいち早く官僚独裁になった日本はブロック経済圏作りに一歩先んじた。国内の統制ができたので、その手法が海外で通用するように思えたが、占領地や植民地の頑強な抵抗にあった。ほかの経済圏からは政治的な平価安とダンピングで反感を買い、対抗処置にあう。その結果、経済圏は安定せず、永久戦争を継続することになった。それが国内の人口と生産性を大幅に下げ、戦争継続ができなくなる。
 そして戦争をやめるに際して、ブロック経済圏構想は廃棄したが、尊皇と反共と民衆嫌悪は維持された。