odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

太平洋戦争研究会「日中戦争がよくわかる本」(PHP文庫) 現地軍の行動や将官・佐官などの言動にきをとらわれすぎて、彼らの代弁者になってしまい、できごとを正確に記述したためにかえって全体像が見えなくなった

 ここでいう日中戦争は1937年の日華事変から1945年の敗戦まで。
 とはいえ、日本軍が中国大陸に軍隊を常駐するようになったのは1900年の義和団事件のとき。以来30年以上にわたって、常駐した軍隊が中国軍と交戦したり、市民に暴虐をふるうことがあったので、1937年を開戦とするのはおかしい。なにしろ日本は中国に宣戦布告していないから。なので、1930年の張作霖爆殺事件以降の日中間の戦闘状況を日本は「変」と呼んで、戦争状態であることを認めなかった。それはおかしいというので、上記事件以降から敗戦までの期間である15年戦争と呼称する場合がある。俺はこちらのほうが実情に合っていると思う。

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 本書は「日中戦争や太平洋戦争の取材・調査・執筆グループ」による一連のレポートの中の一冊。上記期間に関する20の質問に答えるという形式で、記述されている。取材・調査とあるが、文献調査に限られるようで、2006年当時に存命である戦争体験者のインタビューなどはない。それに視点はおもに日本の陸軍にある。日本の政治家、中国の政治家や政治グループなどの記述は少なく、国際政治や経済の話はでてこない。現地軍の行動や将官・佐官などの言動にきをとらわれすぎて、彼らの代弁者になってしまい、できごとを正確に記述したためにかえって全体像が見えなくなる。全体状況で「アメリカは○○の目的でこうした」と書くときに、それを裏付ける資料の読み込みがないので、あいまいな説明が付け加わる。素人の勉強の限界がここにある。
(文庫や新書で読める大多数の日本史が、こういう素人に書かれたものなのは問題。読み込み不足や思い込みがあって不正確。むしろ日本軍の戦争行為を容認・肯定するイデオロギーの拡散目的のものばかり。本書はまだ良心的な内容ではあるが、それでも瑕疵が多くて読むに堪えない。)
 というわけで、ここでの注目は二点。
 ひとつは南京アトロシティ。文献調査で現地にいた日本兵などから証言を引用する。ページの都合で詳細とはいえないまでも、入城以前から虐殺は起きていて、入城後の数日間に膨大な人数が虐殺された。日本軍は記録を残す手間をしなかったので、全体像は不明。
 もうひとつは三光作戦。日本軍は物資(ことに糧秣)を現地調達することを旨としてきた(日露戦争のころはそうではなかったとおもうのだが、いつ堕落したのだ? 追記:シベリア出兵あたりかららしい)。1938年をピークに日本の生産高は落ちたので(経済制裁を受けて輸入が激減し、大量の徴兵が国内労働者を減らすなどが理由)、中国派遣軍はつねに物資不足。くわえて中国軍はゲリラ戦を行ったので、軍の消耗が激しい。そこで取られたのが、殺しつくし・奪いつくし・焼き尽くす三光作戦。「光」はきれいさっぱり何も残らない状態にすることの意味を持つ。そのような作戦(と言えるのか。軍の暴徒化でも足りない)を中国各地で行う。それが1938年以降敗戦までの中国駐留日本軍の姿。そのおぞましい行為が日本兵らの回想・座談などで引用される。本書によると、三光作戦の犠牲者は中国軍将校をのぞいて247万人以上と推定し、今後の研究でさらに増えるという。
 満州に駐留する関東軍とあわせて中国大陸には常時70-100万人の日本軍が常駐していたという。その戦争と虐殺が膨大な中国人犠牲者をだした。
 これを繰り返さないことの責務が日本人にはある。

 

 

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