odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

清水潔「殺人犯はそこにいる」(新潮文庫) 日本の警察は優秀かもしれないが、捜査を隠蔽し記録を公開しない。民主的にはほど遠い。

 1980-90年代に北関東で幼女誘拐事件が断続的に発生した。唯一「足利事件」だけが犯人がみつかる。著者はこの「解決」に疑問を持ち、チームで個人で追跡する。結果、足利事件の「犯人」は冤罪であることがわかり、裁判所が被告に謝罪するまでにいたった。一方、「真犯人」はいまだにみつかっていない(2016年当時)。

5人の少女が姿を消した。群馬と栃木の県境、半径10キロという狭いエリアで。同一犯による連続事件ではないのか? なぜ「足利事件」だけが“解決済み”なのか? 執念の取材は前代未聞の「冤罪事件」と野放しの「真犯人」、そして司法の闇を炙り出す――。新潮ドキュメント賞日本推理作家協会賞受賞。日本中に衝撃を与え、「調査報道のバイブル」と絶賛された事件ノンフィクション。

清水潔 『殺人犯はそこにいる―隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件―』 | 新潮社

 ここから読み取れる問題。

1.日本の警察はたぶん優秀で(他の国と違ってわいろが効かないとか、末端の警察官がわいろを要求しないとかで判定)、刑事事件でもあらかたの事件は正しく解決しているのだろう。しかし、ときに誤りを犯すことがあるが、官僚機構は決して過ちを認めないし、誤った同僚をかばう。ここではDNA鑑定の過誤。1990年代はDNA鑑定技術の開発期で、結果は不安定だった。約10年後の再審では証拠に採用されなかったが、検察や警察は誤りを認めない。

2.捜査中の拷問、強要、暴力。それらの隠蔽。ここでも、逮捕された直後には、怒鳴る・蹴る・殴る・眠らせない・食事をとらせない・誘導尋問などの違法な捜査が行われている。それは密室で行われ、第三者が立ち会っていないので違法性を問えない。21世紀になってようやく捜査中の動画記録を残すようになったが、すべてではなく、必ずしも公開されるわけではない。公開に頑強に抵抗するのが警察と検察。

3.記録を公開しない。2009年に国会の質疑で取り上げられた。その際、警察庁などは再調査をする旨を答弁したが、現場は動かない。裁判記録の公開を要請すると、全面を黒塗りした「のり弁」を出してくる。公正性に反する行為を常習している。

4.メディアの無関心。犯罪報道における被害者救済が実行されていない。メディア、マスコミが正義や公正を実現することを放棄している。結果、警察庁や行政官僚の発表をそのまま無批判で垂れ流している。

 目についたのはここまで。メモを残しておきたいのは、国会で再調査をする答弁がでたのは2009-12年の民主党政権のとき。2015年に再び国会で取り上げたのは民主党の議員。再調査に消極的になったのは自民党政権のとき。
 本書の告発によって、警察と国会が動いた。その点ではこのジャーナリストは良い仕事をした。
 ただ自分の感想では冗長に過ぎる。個人的な感情が大きく書かれていて感興をそぐ。そこらを削って、3分の2くらいにしてほしい。

 

 

<参考> 「私」が登場しないノンフィクション

odd-hatch.hatenablog.jp