odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-1 15世紀から19世紀末まで。黒人奴隷制、奴隷解放後の差別制度のあらまし。

 本書旧版(1964年)は高校生の時に知っていた。その時は「黒人」の歴史に意味があると思わなかった。とんだマジョリティしぐさで、ぼんくらだった。21世紀のBLM運動を見るうちに、タイトルの歴史が重要であることがわかり、勉強することにする。
 今ならアフリカン・アメリカン、ブラックなどを使用すべきだが、この感想では本書表記にしたがって、「黒人」を使用する。
 なお、本書はアメリカ(合衆国)だけを扱っているので、ラテンアメリカなどの知識は下記などで補完する必要がある。同じように差別、迫害の対象になったネイティブ・アメリカンの歴史も重要なので、別に保管しないといけないが、いまのところ良いガイドを探していない。
2017/07/12 今津晃「世界の歴史17 アメリカ大陸の明暗」(河出文庫)

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プロローグ アメリカ黒人とは ・・・ 「黒人」は社会的政治的カテゴリー。ルーツがアフリカにあり、奴隷であった。1990年現在、アメリカの総人口の12.4%で、白人60%超からすると少数者マイノリティ。人種差別の対象であり、1988年にも黒人の未成年男子が冤罪で死刑になった。
(総人口に対する黒人の比率は2014年には変わらない。ヒスパニック、アジア系が増えて、白人比率が下がると予測されている。)
アメリカの総人口における人種の割合
https://www.nhk.or.jp/school/syakai/10min_tiri/kyouzai/001601.pdf

1 植民地時代の奴隷制度 ・・・ 15世紀からヨーロッパは黒人を奴隷にしていた。それが加速したのは17世紀初頭にアメリカに入植者がはいり、タバコ栽培をするようになってから。当初は白人の年期奉公人がきつい労働に従事していたが、黒人奴隷のほうが安上がりになり、法的身分を持たない黒人奴隷が急増する。大西洋航路を渡る際に多くの黒人が死んだので、総計7000万人が渡航したと推計される。

2 独立革命 ・・・ 独立のきっかけになった1770年「ボストンの虐殺」では自由国人を含む植民地人5人が殺された。独立以前から奴隷解放の運動があり、イギリス軍・革命軍ともに解放を条件にして黒人兵士を募集した。独立によって、植民地から民族的解放、前近代的制度の撤廃、国教分離、成文憲法、農民や小市民などの権利保障などが達成されたが、黒人とネイティブは対象外。独立宣言以後の政府は奴隷制を温存した。奴隷解放運動は続き、1803年にはハイチで黒人共和国が誕生(すぐに潰された)。

3 南部の綿花王国 ・・・ イギリス産業革命で、輸出品としてたばこ以外に綿花、米、砂糖、麻などの大規模生産が始まる。これは黒人奴隷の収奪によって経営されていた。重労働と鞭。

4 奴隷制廃止運動 ・・・ 黒人奴隷は逃亡や暴動で対抗。自由黒人のなかには運動を起こすものもいた。フレデリック・ダグラス(1818-1897)が有名(しかし再発見されたのはWW2以後)。白人の中産階級急進派から支援や独自の廃止運動も起きた。
(黒人、白人双方の奴隷解放運動者から隔離「アフリカに帰ろう」施策の提案と実行があった。

5 南北戦争 ・・・ 1861-64の市民戦争。リンカーン奴隷解放に積極的ではなかったが、北軍が劣勢であったので、リベラルな施策を取るようになる。黒人兵士の編入奴隷解放令(1863.1.1)など。
(北部と南部の対立は複雑な理由と背景があるのだが、ここでは奴隷制度の賛否だけにしぼる。黒人は解放戦争と考えて、志願兵になり戦場で戦った。)

6 南部の再建と黒人差別制度 ・・・ 南部は北部が統括することになり民主化が進められる(リンカーンの後の大統領が民主化に反対したが議会が進めたというのがアメリカらしい)。1870年に南部諸州が連邦に復帰(このプロセスはWW2後のアメリカによる日本占領と同じだ)。黒人が選挙権を行使したり、黒人向けの教育システムができたりする。しかし反動が起こり、1890年代から黒人の選挙権がはく奪されるようになる。KKKのような差別団体が自治体権力などの支援を受けてテロを行う。
(この間に、アメリカは工業国化し、フロンティアが消滅する。白人の草の根民主主義、共和主義も変質することになる。)

 

 アメリカの繁栄は、ブラックとネイティブを収奪することで成り立っていたのだ、彼らの労働を搾取することで資本主義ができたのだ、ということがわかる。その暴力と差別のひどさときたら、言語を絶する。
 本書は主題の都合で、黒人差別だけを扱っているが、他の人種や移民などは無関係であったわけではない。インディアンと呼ばれていたネイティブも、主に中国からのアジア系も、ヒスパニックも、東欧移民もユダヤ人も差別や暴力の対象になっていた。ここは忘れてはならないところ。
 白人は決して冷血なわけではなく、チャリティや福祉の支援を行うこともあった。でもその範囲は同じ白人であって、たとえばヘレン・ケラーが恩恵に授かっている。黒人は同じ人種の障がい者のために支援組織を作っていたが、資金不足で援助の範囲は限られていた。彼らの手を貸す白人は少数だった。
2014/02/05 ヘレン・ケラー「わたしの生涯」(角川文庫)

 

 

2022/03/19 本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-2 1990年に続く