odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

渡辺靖「白人ナショナリズム」(中公新書) 日本をうらやむアメリカのネトウヨのいま。自国第一主義団体はグローバルな連帯をめざす!?

 アメリカの白人ナショナリズムの動向を2020年にレポートする。重要なできごとは、911事件とその後のヘイトクライム、2017年10月シャーロッツビルで起きた白人ナショナリストによる襲撃事件(一人死亡)。本書刊行後では、Qアノン、2021年1月のアメリカ議会襲撃事件。

第1章 白人ナショナリストの論理と心理 ・・・ 2019年の白人ナショナリストの集会に参加したレポート。思考の傾向は、自分らはリベラルの犠牲者と思っていて、グローバリズム自由貿易、移民流入、多国間枠組みなど)に反対。ポリティカル・コレクトネスに反対。白人社会、キリスト教社会、西洋文明を守るのが使命。「単一人種国家」の日本は手本。人種差別主義者やレイシストは名乗らない。白人優越、白人優位を使う。
(これは日本の「愛国者」、愛国団体も同じ。ちなみに日本人は勤勉で信頼できると白人ナショナリストに言われている。リップサービスもあるだろうし、対米従属の政策が知られているからだろうが、日本の極右がアメリカに行って白人「優越主義」者とあって記念写真を撮ったりしている。)

第2章 デヴィッド・デュークとオルトライト ・・・ 21世紀の白人至上主義組織の動向。前者はKKKのトップ(のち離脱し新組織を立ち上げ)、後者は暴力的でない新しいグループ。一般市民への訴求力を高めるために、ソフトな手法や茶化し、ネットミームを使ったりする。平均的人間、定職につく人を取り込もうとする。
(これは21世紀にできた日本のネトウヨや極右団体でも同じ。あいにく日本のグループは知性がなく、カリスマ性のあるリーダーがいない。アメリカの団体のような洗練された手法をとれない。それにアンティファの抗議活動で人数は激減した。そのかわり、オルトライトが宣伝しなくても、自民党や維新、都民ファーストなどの保守政党やメディアが同じような人種差別扇動を行っているので、組織化しなくても、排外意識は高まっている。)

第3章 白人ナショナリズムの位相 ・・・ 白人ナショナリズムはイギリス植民地時代にまでさかのぼれるが、南北戦争後に隆盛。有名な団体はKKK1920年代に300~500万人)。21世紀には1200団体があるとされる。共和党には白人ナショナリズム団体が多数支援。米国第一(America First)は伝統的なスローガン。
(黒人からみた白人ナショナリズムの動向。あと、アメリカでは右翼、極右、排外主義団体などの調査が公的に行われている。日本にもナショナリズム団体の調査機関が必要。警察、公安の調査では不十分。)
2022/03/22 本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-1 1990年
2022/03/19 本田創造「アメリカ黒人の歴史 新版」(岩波新書)-2 1990年
上杉忍「アメリカ黒人の歴史」(中公新書

第4章 白人ナショナリズムをめぐる論争 ・・・ 21世紀の白人ナショナリストの傾向。高学歴が多い、反PC・反アファーマティブアクション、人種思考、遺伝学へのこだわり(人種差別の科学的根拠を訴える)、反ユダヤ主義ユダヤ陰謀論
(これは日本のネトウヨにも当てはまる。日本のネトウヨは知性がないので、論争になるような高度な議論を持ち出せない。たいていすぐに嘘や捏造がばれる。)

第5章 白人ナショナリズムとグローバル・セキュリティ ・・・ アメリカの白人ナショナリズム団体はヨーロッパほかの極右団体、自国第一主義団体との関係や接点を深めている。相互に影響を及ぼし合い、ヘイトクライムやテロなどの原因になっている。日本との関係では次のようにある。

「また、SPLCは日本の市民団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会) の元(初代)会長で、「日本第一党」党首の桜井誠にも注目。同氏が二〇一八年六月に米国自由党の年次会合で演説したことや、スイス愛国民族主義党のドミニク·ルサード党首と会談したことを危惧している (SPLC, Intelligence Report, Spring 2019)。(P166)」

 あいにく、桜井誠の渡米は日本のネトウヨや差別団体でも話題にならなかった。日本のネトウヨは外国のナショナリズムとの関係を持とうとしない傾向がある。加えて、この会談の前から「日本第一党」の支持者は急減していて、波及するインパクトを持たなかった。白人に支持される日本のネトウヨという図式を嫌ったのかもしれない。
 白人ナショナリズムや排外主義は世界的な安全保障(グローバル・セキュリティ)の脅威になっている。マイノリティの危機であるだけでなく、リベラルとの分断が加速し、ヘイト犯罪を増加させる。自国の政党制や議会制民主主義への幻滅、社会の閉塞感などがナショナリズムや排外主義になることを助長させる。政治家が差別や排外、ヘイトクライムに反対する声明を出すことが重要(アメリカのブッシュ大統領が発言することでヘイトクライムが減ったというレポートがある)。また離脱・脱過激化する人もいるので、支援プログラムが大事。
(日本では政治家が積極的に排外主義、差別扇動、歴史捏造を行う。知事や総理大臣などによる差別反対の声明は全くでない。また行政や司法でのヘイトスピーチや外国人排除・ネグレクトも常態化している。とくに入管と警察。日本の自国第一主義団体は長期的には凋落傾向にある。しかし、個人が突発的に行うヘイトクライム、外国人襲撃、施設破壊などは増えている。すでに差別団体による扇動が必要でないほど、国民に差別や排外、外国人嫌悪が定着しているのだ。)

 

 本書では、分析と日本とのかかわりを意図的に少なくして、事例紹介に努めている。なので、日本とのかかわりは補足した。白人ナショナリストは日本の極右運動をうらやむ。日本が「単一民族国家」であること、保守政治家が自国第一のスローガンを声明にだすこと、ヘイトスピーチヘイトクライムに罰則がないこと、移民が相対的に少なく「日本人」だけで社会が構成されているように見えることなどが理由。でも、日本のQアノン(一部の組織は旧統一教会で構成されているかもという噂がある)がトランプ支持をするほかは、外国のナショナリストや極右には無関心。
 自国第一のナショナリスト(日本ではネトウヨ、極右の方が通りがよい)が社会の危険になるのは確かだ。この国には反差別の歴史がほとんどないので、ヘイトクライムが起きても反応が鈍い。そこはどうにかしないとなあ。本書を読んでも、対岸の火事くらいのに思われそうなので、日本のナショナリズムの動向を調査する新書があればいいのだが。

 

渡辺靖「白人ナショナリズム」(中公新書)→ https://amzn.to/3TNyOWf