odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

荒このみ「マルコムX」(岩波新書) 欠点が多い青年のアジテーションは被差別黒人の「教師」「鼓舞する人」「希望の象徴」。

 以前にマルコムXの言葉を読んできたが、ピンとこなかった。そのあたりは、下記のエントリーで。
アレックス・ヘイリー「マルコムX自伝」(河出書房新社)
デビッド・ギャレン編「マルコムX最後の証言」(扶桑社文庫) 
 そこで、第三者の視点による評伝を読む。2009年刊行で、マルコムXに感銘をうけたバラク・オバマが最初のアフリカン・アメリカンの大統領になった熱気が込められている。以下では本書の記述に沿って「黒人」表記を使います。当時の政治、社会、差別の状況を示すため。

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 読後の感想。やはり自分のなかに、過去のプロパガンダ、情報の偏り、自分のバイアスなどがあって、マルコムXを暴力行為を辞さない過激な活動家のように思っていた。それは時代と時の権力によってつくられた像であることがわかった。暗殺後50年を経て情報を再検証してみると、彼はナイーブで世間知らずで不器用な若者だった。父母を若い時になくしているためか、伯母やネイション・オブ・イスラムの指導者などのメンターを必要としていて時に過度に依存することもあった。組織の運営には不向きで、設立した組織や運動はうまくいかなかった。独学によってたくさんの知識をもっていたが、理論的であることは苦手で、論理の飛躍や矛盾には無頓着だった。
 そういう欠点を持っていて、マルコムXは熱狂的に支持された。当時からの評されていたのは、マルコムXは「教師」「鼓舞する人」「希望の象徴」だということ。公民権法もアファーマティブアクションもなかった時代に、黒人は白人より劣ると思い込まされている時代に、黒人の歴史を知ろう(それがのちにブラック・スタディーズという学問になる)、黒人差別は犯罪であると言い切り、「自分で見よ、自分で聞け、自分で考えよ」「自分に対して卑屈になって劣等感を抱き、自己否定するのは止めよ」とメッセージを発する。それが黒人の琴線に触れて、黒人の語られない/語ることを止めさせられている感情の代弁者となった。マルコムXが演説をすると、「わかりやすくいってよ、マルコム」と聴衆がコールすると、マルコムが応える。こういうやりとりが「時代に化学反応を起こす媒体」となったのだろう。
 マルコムXは演説のいたるところで「必要ならゆる手段で」(差別をなくす、黒人の尊厳を守るなど)といった。その言い回しを使って、権力や反対者は暴力肯定者、暴力活動扇動者とプロパガンダを行った。なるほど同時代にブラックパンサーのような黒人武装組織があり、黒人の代弁者であるマルコムXが首謀者とみんされるような時代の雰囲気はあったのだ。実際のところ、マルコムXは非暴力であるといっていて(ただし自己防衛のための暴力は否定しない)、彼の行動は常にそうだった。ときには暴動寸前になりそうな事態で、集まった黒人たちを鎮静化させ自宅に帰らせることもしたのだった。ネイション・オブ・イスラムを脱退したあとのアフリカやメッカ巡礼などを行うことで、連帯や統一戦線の重要性を説くようになる。なるほど、マルコムXは21世紀の反差別運動やアンティファの方法と思想を50年前に主張していたのだった。
 このように見るとき、マルコムXの重要さがわかる。
(彼が直接発したことばでわからなかった自分に失望。)

 

 

 色を善悪のシンボルとみなす思考は近代の西洋からあったことを指摘していた。

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<参考エントリー>

odd-hatch.hatenablog.jp