odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ウィリアム・シェイクスピア「から騒ぎ」(白水ブックス) だれもがどこにでもいるような普通の人々は言葉の達人。地口にしゃれ、頭韻、押韻、意味の取り違えをぽんぽんと口にする。

 シシリー島メシーナの執政官レオナートには美しいひかえめな一人娘ヒーローと毒舌で高慢な姪ベアトリスがいるが、二人とも年頃なにの結婚しないのが気になる。アラゴンの領主ドン・ペドロがやってきたので一月歓待することにした。いっしょに来た貴族のクローディオとベネディクが二人が気になる。クローディオは結婚しないと決意していたが、戦争が終わると胸がうずきだす。宴で見たヒーローにたちまちぞっこんになる。生来の女たらしベネディクはベアトリスの毒舌をどうにかしてやりこめたい(中学生かよ!)。

 ふたりの悩みを聞いたドン・ペドロは一計を案じて、この恋を成就させようと誓ったのであった。内気で口説けないクローディオのかわりに彼の身なりをして、ヒーローと結婚の約束を取り付ける。今度はベアトリスとベネディクの番だと、彼らが見ている前で、それぞれが互いのことを憎からず思っていると吹き込んだ。毒舌に女たらしと自称しながら根は単純な二人、自分が恋されていると知ると、純情な気分になるのである。でも顔を合わせると毒舌の応酬になってしまう(中学生かよ!)。
 この縁談が進むのが楽しくないドン・ペドロの弟ドン・ジョンが従者を使って、ヒーローが不貞の女だるという噂をながす。真に受けたクローディオ、婚約を破棄し、面前で彼女を罵った。あまりの苦痛にヒーローは失神してしまう。激怒したレオナートはドン・ペドロらにクレームをつけると、クローディオは決闘を申し込むのであった。そこに間抜けな門番らが不審な従者を捕えると、ドン・ジョンの策謀が発覚。死んだと思われたヒーローが姿を現すと、クローディオが改めて結婚を申し込む。ベネディクが毒舌をやめないベアトリスに結婚を申し込むと、彼女は怒りながら承諾するのであった。音楽だ、ダンスだ、祝いだ!

 1598-99年ころに書かれたと推定されるシェイクスピアの喜劇。喜劇的な状況は、身なりを変えた入れ替わりと、思い違いによるすれ違い。どちらも古くからある趣向だし、最近でもラブコメに登場するテクニック。シェイクスピアも達者なプロットで、二つの恋の行方を楽しませる。
 シェイクスピアの喜劇ではとてもユニークなキャラクターがでてきて、事態をひっかきまわし、周囲を巻き込んでいく。でも、この作品ではキャラはだれもがどこにでもいるような普通の人々。記憶に残るようなキャラはいない。それでも喜劇が成り立つのは、だれもがことばの達人で、地口にしゃれ、頭韻、押韻、意味の取り違えをぽんぽんと口にするところ。これを早口で演じたら、まるで日本も漫才、漫談を聞いているかのよう。達者な芸人がやったら、受けただろうな。おれの内部の声は漫才に向いていないのでほくそ笑むくらいのことしかできなかったが、物まねがうまい読み手なら、シェイクスピアの言葉遊びに哄笑するのではないか。「間違いの喜劇」も言葉遊び、漫談の喜劇だったが、後から書かれたこちらの方がずっと優れている。
 英語の言葉遊びはなかなか日本語にしずらいと思うが、小田島雄志はそのまま漫才の台本になるくらいのものをポンと提出してくれた。日本語の名人にかかればここまでおもしろくなるんだ。日本語はまだすてたもんではないな。

 

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