odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ウィリアム・シェイクスピア「ヘンリー四世 第二部」(白水ブックス) 史劇そっちのけで、太って大食漢で大酒のみでほら吹きで吝嗇で女好きで無学の太鼓持ちのファルスタッフを嫌悪しながら愛着する

 シェイクスピアが1596-99年の間に書いたとされる歴史もの。極東に住むおれには背景がちんぷんかんぷんなので(代わりに歌舞伎は見当がつく)、資料を読む。
百年戦争

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ヘンリー4世 (イングランド王)

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 中世から近世に切り替わる時期で、王権が強くなり中央集権化が進む時代。ヘンリー3世から5世までの間に、イングランドによる統一が進んだのだろう。代償は一族内での紛争で、ここでも諸王がヘンリー4世に反乱を起こし、内政が安定しない。反乱軍は意思の統一ができず、ヘンリー王も部下や子供らを信用できない。結局のところ部下の奸計によって反乱軍を押さえたものの、ヘンリー4世自身は体調すぐれず疑心暗鬼のまま世を去り、第一継承者が王に立ったものの諸侯は不安と不信で立ちすくむ。
ヘンリー四世 第二部

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 1400年からしばらくの王と諸侯との関係は、複雑怪奇をきわめ、彼らの言動からは王権強化のための正しい道筋は見えてこない。いかに王に仕えるかのモデルを見出すこともできない。ゆえに、ヘンリー王の周りの者は一瞬にして浮沈みを体験することになる。中世の騎士のような忠誠関係は見いだせないのであって、そこから近世の人間関係を見出すこともできるだろう。それこそマキャベリ君主論」との親近性も見えてくるかもしれない。
 とはいえ、大量の登場人物を覚えるのもむずかしく、第4幕までの王をめぐる話は平坦であり、そこまで検討する気力はもたない(wikiをみると本作の評価は芳しくない)。

 多くの人は狂言回しとしてのファールスタッフに関心を持ちそう。この太って大食漢で大酒のみでほら吹きで吝嗇で女好きで無学の太鼓持ちを嫌悪しながら愛着する。実際、彼に借金を踏み倒されているクイックリー夫人やドル嬢はファールスタッフに悪態をつきながら、彼の悪行を認めるにやぶさかではない。いったいファールスタッフは常識も良心も持ち合わせず、機会に応じて立場を次々と変えていく。役職に関係なく、どの階層・階級にも自在に出入りする。この人物だけは、ティル・オイレンシュピーゲルのような中世のトリックスターの再来ともいえ、マキャベリの「君主論」では分析しようがあるまい。その魅力がどこにあるのかは、他の人がたくさん語っているはず。シェイクスピア自身も、彼を主人公にした「ウィンザーの陽気な女房たち」を二次創作しているほどだ。
 

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