1945年から52年まで。日本が他国に占領され、主権が制限されていた時代。これまでに読んだ参考書は下記など。
2015/04/10 竹前栄治「占領戦後史」(岩波現代文庫)
2021/01/29 雨宮昭一「占領と改革」(岩波新書) 2008年
末尾の一文で著者は占領期を「いまわしい時代」とし、それが終わったことを喜ぶ。この心象は多くの人ももっているようで、占領期のことは語られない。何があったかを記述しない。それでは戦後政治の基礎が分からなくなるので、この時代を正確に知らなければならない。
(「いまわしい時代」とする一方で、占領軍による民主化政策を懐かしむ心象もある。)
日本降伏 ・・・ 記述は8/15からだが、敗戦をその日に置くのはどうかという議論がある。
佐藤卓己「八月十五日の神話」(ちくま新書)
2021/01/28 佐藤卓己/孫安石 「東アジアの終戦記念日―敗北と勝利のあいだ」(ちくま新書)
敗戦後に起きたのは、戦闘停止と武装解除の命令(一部違反)、政治体制変革への抵抗(内務省、外務省他)、軍物資の横流し、闇市、占領軍向け慰安所設置、引き上げなど。植民地出身者の帰国が進まないことは触れられない。
民主化政策と旧支配体制の解体 ・・・ 1945.9.28にマッカーサーが日本に乗り込み、民主化政策が始まる。表現の自由、労働組合推奨、財閥解体、軍国教育の廃止が主な施策。日本の閣僚、官僚が抵抗したために内閣総辞職が行われる。1945年年末ごろから戦争犯罪人のリストアップが始まり、数名が自殺、一部未遂が起こる。
(近衛文麿は総理大臣を辞めた後の言動を見ると、反共に取りつかれた陰謀論者で、今のネトウヨと同じ心性の持ち主だった。こういうのが国の指導者になれば迷走するわ決断できなくて辞職するわな。近衛のようなネトウヨしか軍部に代わる総理大臣になれなかった。ファシズムは国の指導者の質を悪化させる。)
民主主義運動の開幕 ・・・ 10月ころから在日中国人や朝鮮人による労働争議がおこり、触発された日本人の労働争議も起こり、組織率が上がる。新しい政党の組織化も始まる(保守は公職追放などあって混乱)。言論人も自由な言論を始める。憲法改正論議が起こる。
前の章も含めて、社会主義者や共産主義者の運動は重要ではあるが、ページを割きすぎ。彼等先進者の活動があったと強調するのは、彼らやその後継団体に負担を押し付けることになる。保守や極右などが興隆する理由を考え、彼らの責任を追及するために、保守の運動にもっと言及したほうがよい。)
(治安維持法などによって1920年代半ばからこの国では議論の言葉や論理が画一化される。言論の自由、表現の自由があると言われても、新しい考えを新しい言葉で語ることができない。できたのは隠れてマルクス主義や西洋の自由主義を勉強していた人だけ。なのでファシズムや全体主義の危機があるときほど、多様な言論(ヘイトスピーチ、排外主義、歴史捏造、狂信的愛国主義は除く)を行い、それができる場やグループを確保することは重要。
「民主革命」運動 ・・・ 1946年上半期。労働争議、食糧メーデー。米国からの食糧輸入。憲法草案提示。総選挙。組閣が混迷し吉田茂内閣成立。
(公職追放で当時50-60代の管理者、責任者がいっせいに要職からいなくなり、30-40代がそのあとを継いだ。敗戦から大阪万博ごろまではそうやって責任を負った若手が物事の改革や新規イノベーションを担当した。高度経済成長は日本の責任者がどこでも若かったため。でも万博以後は彼らが老いた現状維持の保守になってしまって、日本の変化を阻害する側になった。)
新憲法制定 ・・・ 同じく上半期。憲法草案審議。極東軍事裁判開廷。農地改革、財閥解体、独占禁止法施行。学制改革。教育基本法。中学の義務教育化のために自治体は費用の捻出に苦慮した。1946年11月、日本国憲法公布。
アメリカがどのような占領政策を行ってきたかは、下記が参考になる
竹前栄治「GHQ」(岩波新書)
2015/04/13 読売新聞編集部「マッカーサーの日本 上」(新潮文庫)
2015/04/14 読売新聞編集部「マッカーサーの日本 下」(新潮文庫)
あたりまえのことだが、GHQは数万人の組織であって、部局ごと政策が一致していないことがあったし、本部の思想が末端まで貫徹しているような組織でもなかった。しかし、実態があまり知られていないので、WGIPのような陰謀論、マッカッサーに関するさまざまなデマが21世紀にもなっていまだに流通し、極右やレイシストが広げている。
そうなってしまう理由は、戦争責任の追及を他国まかせにして、自分たちで民族の犯罪を断罪しなかったことにある。自分ごとにする思想がこの国の国民になかったし、それを実行することができなかった。
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大江志乃夫「天皇の軍隊 昭和の歴史3」(小学館文庫)→ https://amzn.to/3CqJIvT
江口圭一「十五年戦争の開幕 昭和の歴史4」(小学館文庫)→ https://amzn.to/3ObvZM4
藤原彰「日中全面戦争 昭和の歴史5」(小学館文庫)→ https://amzn.to/3AwWKYt
粟屋憲太郎「昭和の政党 昭和の歴史6」(小学館文庫)→ https://amzn.to/40QY9DJ
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2022/12/05 神田文人「占領と民主主義 昭和の歴史8」(小学館文庫)-2 1988年に続く
占領期日本の気分や空気は、その時代にかかれた戦後文学で味わえる。