odd_hatchの読書ノート

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杉原達「中国人強制連行」(岩波新書) 大日本帝国は占領地の中国人を拉致して日本その他で危険な労働を強制し多数を殺した。

 1946年に外務省が調査したら、約4万人の中国人が戦争末期の1944~45年に強制連行された。連行先では強制労働が行われ、24時間の監視、生存ラインぎりぎりの食糧、悪質な労働環境と住環境、医療なし、監視員他による暴行や拷問の頻発などにより、多数の中国人が殺された。連行先は本書で判明している限りで列島の135箇所に及ぶ。とくに有名なのは秋田県の花岡の鉱業所。ここには586人の中国人が連行され418人が死亡した。悪質な状態に中国人は抵抗のために蜂起したが、企業と警察、軍隊によって鎮圧された。この事件は長らく秘匿されたが、1980年以降に生存者は戦後補償を求めたことにより、民間で調査が行われた。2000年には加害企業である西松建設と被害者の間で補償金を支払うことなどの内容で和解が成立した。また強制連行された中国人や朝鮮人は広島や長崎で被爆している。日本政府は被爆したアジア系外国人に補償していない。


 同じ時期に朝鮮人が強制連行されている。本書によると75万人に及ぶという。これまでは植民地や占領地での強制連行は日本国内の労働力不足に対する補填と考えられてきた。しかし強制連行を労働政策とするのは1930年代後半に企画され法令がつくられていたので、「大東亜共栄圏」の労働力分配であるとみるべきという。実際に、中国や朝鮮で拉致された人々は内地だけでなく、「満州国」にも送られていた。
 仕組みはこう。労働力不足の企業は厚生省に徴用工の申請を行う。厚生省が認可すると、占領地や植民地の機関に指示して徴用を命じた。建前は労働契約を結んでいるのであるが、実際に行ったのは戦闘の俘虜を収容所にいれ、彼らを労工と偽って内地や満州に送った。国際法では俘虜に労働させることは違反であるが、それを逃れるために身分を偽ったのだ。もうひとつは占領地や植民地で行った拉致。白昼、深夜、時と所を構わず労働可能な男性を拉致して労工としたのだった(ここでも収容所が使われたが、その待遇はナチス絶滅収容所と同じ)。

2023/01/10 莫言「赤い高粱」(岩波現代文庫)-1 1987年
2023/01/09 莫言「赤い高粱」(岩波現代文庫)-2 1987年
(女性を拉致したときは、慰安婦=性奴隷とした。占領地や植民地での拉致はこの二つの様相があり、同時に食糧徴発や家財資産の破壊であり、農地の焦土化だった。三光作戦である。)
2017/05/23 吉見義明「従軍慰安婦」(岩波新書) 1995年
2012/09/13 平岡正明「日本人は中国でなにをしたか」(潮文庫)

 本書では中国人強制連行した企業の名前がでてくる。備忘のためにメモ。西松建設、鹿島組。731部隊と同様に、加害企業は戦後も国内で事業を継続したが、被害者の救済要求に一切答えてこなかった(花岡事件を起こした西松建設は補償を含む和解を受け入れた。珍しい例。朝鮮人の徴用工に対して韓国の裁判所が日本企業に補償を命じる判決を出しても、外務省と当該企業はいっさい補償していない。この国の政府が戦後補償を拒否する政策をとっているため)。
 さて、1946年に厚生省は中国人強制連行の実態を調査したが、そのデータが戦後補償に使われることはなかった。調査内容も不十分なもので、当時ですら被害者の行方を調べた様子はない。たんに占領軍への配慮であった。中国で共産党政権ができて冷戦構造になると、占領軍は占領地の実態調査を止めた。その後、中国との国交はなく、韓国の右翼政権は日本の保守政権の支援をあてにしたので、ながらくこの問題は放置された。むしろ積極的に無視された(たとえば朝鮮人や台湾人が軍属になったが、彼らが日本の国籍を剥奪されるといっさいの社会保障の対象外になった)。
 これが変わるのは1980年代以降。老境に入った中国の強制連行被害者が救済を訴えた。双方の政府や裁判所は門前払いであったが、日本と中国の市民が動いた。証言を集め、現地調査をして、すこしずつ実態を明らかにしていった。本書(2002年刊行)の記述のほとんどは声を上げた被害者の聞き取りと市民の活動のレポ。著者は長年これらの活動を支援してきた。そこから国を超えた市民のつながりを広げることと、被害者の思いに心情を馳せることを重要だと主張する。
 21世紀になると、被害者も市民の支援者も高齢になった。この問題もメディアに出てくることがほとんどない。21世紀の10年代に反中嫌韓ヘイトスピーチが蔓延したので、ますますこの問題が目に見えなくなっている。自分がこの活動にコミットしているわけではないので、表層的な感想をいうと、忘れてはならない、二度と起こしてはならない。

 

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