国の難民問題を担当していた人の啓蒙書。2016年刊行。法務省や入管の代弁なので参考にならなかった。
第1章 難民とは何か ・・・ 定義や範囲はいろいろ変わるが、人種・宗教・国籍・特定集団の構成員であることや政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあって国籍国の外にいるものあたり。国内の難民や拉致被害者などは入らない。ヨーロッパの難民政策はWW1やロシア革命から始まり、国際連盟・国際連合で専門組織が作られ、国際条約が締結されている。恒久的解決には、自発的帰還・国内社会への定住・第三国への定住が費用負担や国内感情などで一枚岩の対策が立てられにくい。21世紀は戦争による死者は減少しているが、難民になったり移動ができなかったりして死亡する人が増えている。
第2章 揺れ動くイスラム圏 ・・・ 難民を生む地域について。1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻から生じたイスラム原理主義によるマイノリティ迫害と人権侵害から中東・北アフリカで難民が生まれている。21世紀にはアフガニスタン、シリア、イラクで多い。アメリカがそれまでの武力介入を抑えるようになって、政情不安が著しい。2022年のアフガニスタンでタリバン政権ができたことなど。
(忘れてならないのは、パレスチナ難民、東南アジアの独裁国家、アラビア半島などの難民がいる。2022年にはロシアのウクライナ侵攻でウクライナ難民が急増した。)
第3章 苦悩するEU ・・・ 移動の容易さや難民保護政策があるので、中東北アフリカの難民はEUを目指す。あまりに大量の難民が来るので、EUの理想主義にほころびがある。経由国(ハンガリー、オーストリア、スロバキア、イタリアなど)は受入や通過を拒否するようになっている。極右政権になって排外政策をとるようになっている。受け入れ国のドイツやスウェーデンでも国民の反発が高まっている。受入や定住支援の問題は、1治安の悪化、戦争犯罪者の混入、テロの危険の増大、2政治の複雑化·不安定化·麻痺、3経済·社会的コストの増大、4喧噪化 (騒がしくなること)·荒廃化など、居住環境の悪化、5人口·民族·文化構造の変容など。これを、人間・政治的・国家的・感興的・社会的安全保障の危機ととらえることができる。難民が定住すると、次の世代が生まれ、ナショナリズムや宗教に基づく政治活動を行い、自治や国政に参加するようになる。とくにイスラムは西欧社会の自由主義や民主主義と合わない考えをするので、これまでに作ってきた規範が壊れる可能性がある。
内藤正典「ヨーロッパとイスラーム」(岩波新書)
第4章 慎重な日本 ・・・ (著者が外務省勤務があり法務省難民審査参与員ということなので、日本の難民(受け入れない)政策を正当化する内容。一部には傾聴する指摘があっても、人権問題になっている事案を取り上げないのはダメ。入管では毎年収容者が死んでいるし、医療を受けられずに放置され、職員による暴行暴言が日常化している。技能実習生制度は名ばかりで奴隷制のような扱いが横行している。)
第5章 漂流する世界 ・・・ (国連が機能しなくなって、国家のエゴイズムが強くなった。)
終章 解決の限界 ・・・ (理想主義もいいけど、負担の割に効果が上がらないし、リソースも足りないから現実主義で行こう。だから、難民受け入れ審査が厳しい日本のやり方はEUより賢いやり方だし、文化衝突や多文化共生にしない方がいいんだよ。)
現実主義は現状を変えない保守主義で、ヨーロッパと中東から離れている日本が難民問題に傍観者でいいのだと。政権擁護は楽でいいなあ。
墓田桂「難民問題」(中公新書)→ https://amzn.to/4ainqIX