odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

トーマス・マン

トーマス・マン「ファウスト博士 中」(岩波文庫)-1 エリート主義のドイツ精神は資本主義と民主主義で消えてしまう

2023/04/17 トーマス・マン「ファウスト博士 上」(岩波文庫)-2サマリー 1947年の続き この小説はアドリアン・レーヴェルキューンという「天才」作曲家の伝記なのであるが、彼を書く以上の熱意をもって、語り手の現在を記す。すなわち、ヒトラーが始めた戦争…

トーマス・マン「ファウスト博士 中」(岩波文庫)-2サマリー

2023/04/15 トーマス・マン「ファウスト博士 中」(岩波文庫)-1 エリート主義のドイツ精神は資本主義と民主主義で消えてしまう 1947年の続き 第21章 1944年の戦況。ロシアが攻勢に立ち、イタリアの独裁者が失脚する。ドイツでは「国際的(インターナショナル…

トーマス・マン「ファウスト博士 下」(岩波文庫)-1 18世紀からの教養市民層の終わり

ドイツの作曲家アドリアン・レーヴェルキューン(1885-1940)がどういう人物であるかというと、「静かで、無口で重苦しい気分の人」であり、随所にみられる行動性向は、うぬぼれ・まじめ・謙虚・社交嫌い・お世辞嫌いであり、いっぽうでパロディ好き・嘲笑す…

トーマス・マン「ファウスト博士 下」(岩波文庫)-2サマリー

2023/04/13 トーマス・マン「ファウスト博士 下」(岩波文庫)-1 18世紀からの教養市民層の終わり 1947年の続き 第34章 1919年。アドリアンの体調は回復して、「黙示録」がわずか半年で創作された。 「むしろ病気において、そしていわば病気の保護のもとで、…

トーマス・マン「永遠なるゲーテ」(人文書院) ゲーテ選集の序文でありながら、ゲーテ「神話」を打ち消す内容

トーマス・マンはゲーテを尊敬し触発され、彼を研究して評論や創作を行ってきた。たとえば、トーマス・マン「ゲーテとトルストイ」(岩波文庫) 1922年トーマス・マン「ワイマルのロッテ」(岩波文庫) 1939年がそれ。本書は、1948年に書かれた原題「ゲーテに…

トーマス・マン「だまされた女」(光文社古典新訳文庫) 老年女性の道ならぬ恋は抑圧からの解放か、それともはしたないのか

1920年代のデュッセルドルフ。ドイツのある家族がアメリカ人を英語の家庭教師に雇う。女主人は夫に先立たれ更年期になっているが、この単純素朴なアメリカ人に惚れてしまった。とはいえ、ドイツの道徳ではつつましくなければならない。この設定から、いくつ…

トーマス・マン「リヒャルト・ワーグナーの苦悩と偉大」(岩波文庫) ワーグナー批判にみせかけたナチス批判

ふたつの講演が収録されている。最初の「リヒャルト・ワーグナーの苦悩と偉大」は1933年2月10日ミュンヘン大学でのもの。ヒトラーの首相任命の10日後。反響はすさまじく、のちにマンがドイツにかえれなくなる原因となった。のちにドイツの音楽家からこの講演…

トーマス・マン「詐欺師フェーリクス・クルルの告白」(新潮文庫) 19世紀に郷愁を感じる教養市民による「仮面の告白」

詐欺師フェーリクス・クルルの告白 ・・・ 2012年には光文社文庫で上下2巻の巨大な長編で翻訳されているが、1951年初版の新潮文庫では第1部と第2部(未定稿)だけが訳出されている。トーマス・マンは1875年6月6日生まれ、1955年8月12日没。ということなので、…

トーマス・マン「マリオと魔術師」(角川文庫) 1920年代北イタリアの避暑地はファシズムの胎動地

表題作ともう一作がはいった短編集。いずれも1920年代の不安と不況を反映した時代の物語。 マリオと魔術師1930 ・・・ 北イタリアの避暑地を訪れたドイツ人作家の一家。ある夜、魔術師が町の劇場で公演をするというので、一家総出で見に出かけた。この魔術師…

トーマス・マン「ベニスに死す」(岩波文庫) 老いたロマン派の芸術家は若く美しい芸術の神ミューズを絶対に捕らえられない。

高校生の時に「トニオ・クレーゲル」と併録された新潮文庫で読んだが、なんだかよくわからなかった。それ以来なので四半世紀ぶりということになる。一時期はマンの作品をよく読んだが、その緻密さに驚かされる一方で、なかなか作品世界の中に入っていけない…