素晴らしい宝石をつけた女優が誘拐され、宝石を奪われた事件に端を発して、お針子がまた誘拐された。しかも、連れ去った者も、連れ去られた場所も同じ。この怪事件を結びつけるものは何もない。だが、デンヌリことリュパンが首を突っ込んだことから、意外な事実が浮かび上がった。〈謎の家〉とは? パリを舞台にリュパンが大活躍。
謎の家 - モーリス・ルブラン/井上勇 訳|東京創元社
長年の確執というのは、フランス革命から始まっている。事件は1927年におきているので150年も昔のこと。世代を超えた憎悪というのもあるにはあっても、この長さ! 長州と会津なんかの確執もこの長さになったのだっけ? ここらへんの設定はミステリではなく、伝奇かゴシック・ロマンスになるのかな。1870年代の「ルコック探偵」だとまだフランス革命に端をはっするというのは、生き生きとした感情をもたらすのだろうけど。現在(2009年)のわれわれだと、明治維新に起きた2つの家族の確執といまに続くというのは、想像力を働かせないとリアルにはなかなかならない。
巧みな犯行トリックはのちにクィーンが「神の灯」で大胆にしかも精緻で、フェアに扱ったものと同じ。ここでは、それらしい伏線はなかったな。惜しい。抜け道があると思わせて、実はなかったというのはほほえましかった。
リュパンの活躍は1900年代初頭から始まるので、すでに30年の実績を持っている。そのため、リュパンは中年紳士として現れるのであって、彼が18歳の娘とロマンスを結ぶということになる。だから、かつてのように美女はすぐさまリュパンのとりこにはならず、彼の求愛をストレートには受け付けない。それは長期間ヒーローであるものの悲しさ、というか滑稽さになる。まあ、そこはそれ、40代と20代の親子ほども年の違うカップルも結末では結ばれるのだ。たぶんリュパンものの読者層からすると、まるで自分のことのように感情移入するのだろう。(それ以外にも彼の老いは随所に現れていて、恋敵は若くて資産持ちだし、活動的だしで、ここでのリュパンはかつての輝きを持っていないのだ。中年ヒーローの悲哀を感じる一編だった。
すこしずつリュパンものを読んでいるのだが、できるだけ薄いものから読むことにしようとしたおかげで、後半の作品から読むことになっている。どうも、作者が老年になってからの作品だと、切れがなくなってきて、書き込みも薄くなり、ストーリーがはしょられるようになって、読むのがつらい。端的には駄作に付き合っているということになる。松岡正剛によると、「金三角」「カリオストロ伯爵夫人」あたりがよいらしいので、そこにいけるのを楽しみにしておきたい。
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