odd_hatchの読書ノート

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ライアル・ワトソン「生命潮流」(工作舎)

 ここでの主題は、生命探究の還元主義批判で、すべてをDNAとその発現機構だけで説明するのはおかしいというもの。こういう機械論の考えでは説明つかないものがたくさんあるよ、そして科学のもっている手段では発見することのできないシステムが生物にはあるよ、というのが彼の主張。このとき彼が持ち出すのが、コンティンジェント・システムなるもので、彼にも言語化できないので、要領を得ないのだが、生命−個体−集団−複数の種の集まった集団に共通するなにかの同一性とコミュニケーションのありかた、らしい。なにしろコンティンジェント・システムにきわめて近い説明がユングの集合無意識というのだから。それはシンクロニシティやテレパシー、UFOの実在なんかを説明する論理だ。
 ここを説明をする論理の飛躍がはげしいなあ。分子レベルのセントラル・ドグマからいきなり集合無意識まですっとぶのだもの。ここはやはり、池田清彦構造主義生物学あたりで個体を作る「構造」を間に挟み、吉本隆明共同幻想フーコーエピステーメーなんかで種内の同一性を解明し(人間以外への適応が困難か)、生態学の知見で集団間の調整と進化のシステムを説明し(無理かな)、その上でコンティンジェント・システムを持ち出すのなら無理がなくなるのだが。とはいえ、それぞれのレベルの議論はまだ仮設の域をでることができず、「共同幻想」「エピステーメー」は科学の言葉に翻訳することはできないだろう。となると、可能性の少ない仮説を積み重ねたうえで提示される「コンティンジェント・システム」がどれほどの合理性・実証を有しているかというとそこは大いに疑問。今の科学では評価不能のアイデアです。数世紀後に見直しが起こることを期待しよう。できるかな。もしかしたら、ひょっとすると、たぶん。あと、ワトソンはかせは、「コンティンジェント・システム」仮説を他の本でも主張しているのかな。数冊しか読んでいないが、他の本では言及されていなかった。もし、「生命潮流」一冊だけしか言及していないのであれば、誠実ではないなあ。
 というわけで、ワトソンは科学者や啓蒙家というには粗雑。こういう議論の書よりも、ノンシャランなフィクション作家として書いた「未知の贈り物」のほうが面白い。
 一応、確認しておこう。この本には、「百匹目のサル」「グリセリンの同時結晶化」の話が出てくる。ニセ科学でよく引用されるこの二つの話は、ワトソンの作り話で、「生命潮流」が初出。
百匹目のサル」のデバンキング記事
みんなの想いが奇跡を起こす「百匹目の猿現象」
グリセリンの同時結晶化」のデバンキング記事
グリセリンの結晶化(シンクロニシティ)
 もとにそれをベースに何冊も本を出している、経営コンサルタントというのは悪質だ。

 宗教団体・ひかりの輪が「100匹目のサル」を肯定的に扱っている記事を見つけたので、メモしておく。
13.複数の意識図 / 自己成長のセラピー講座 / (参考解説1)仏教・ヨーガと心理学 // ひかりの輪