odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

都筑道夫「ベッド・ディテクティブ」(光文社文庫)

 「泡姫シルビアの華麗な推理」の続編。版元が変わっている。1986年初出。

ふたりいたシルビア ・・・ 休暇明けで店に出ると、新人ソフィーが50万円を返すといってきた。もちろんシルビアは、ソフィーも彼女のいう別のシルビアも知らない。なじみの客に話をしたら、ソフィーを呼んで二輪車をすることになった。抜群のテクニックを見せるソフィー。それを眺めてシルビアはなぜこうなったのかわかる。まあ、推理しましょうではなく、センセーのエロティック描写を楽しみましょう。よく調査をしたらしく、サービスの内容は現実のそれと遜色ない。

服を脱がないシルビア ・・・ 前作で謎解きをしてあげた吉原署の警官に紹介された客が指名した。双子の奥さんがアメリカ出張中に入れ替わったのではないか。その確証はないので、シルビアが解決策をさずけると、翌日客は失踪し、奥さんともども死体で発見された。双子の姉妹の泡姫の話を聞いて、シルビアは複雑な家族感情を見出す。

涙ぐむシルビア ・・・ 泡姫仲間のグレースがシルビアの周りの姫たちにテクニックを売って金を集めていた。その一方、友人の姫には服を買ってあげている。おかしな挙動をしたあげく、同棲の男を刺すという事件を起こした。金その他に不満があるとは思えないのになぜ。知られたくない過去や家の秘密を暴かれるというのは辛いやなあ。ここでも主題は謎解きより、エロティック描写を楽しむこと。なんてうまいんだろう(ん、何が)。

怒るシルビア ・・・ 今度は店の中の事件だ。客がトイレに行っている間に、店中停電。外に追い出された客とシルビアがなかに入ると、スーザンは風呂の中で溺死していた。風呂の中にはコンセントにさしたヘアドライヤーが落ちている。スーザンは強気の男が大嫌いで、同棲している気の弱い男も歯牙にもかけない。さて、何が起きたのでしょう。例によって金の切れ目が縁の切れ目になるというしだい。実は弱いスーザンのことを思って、シルビアは怒りを真犯人に向ける。

化けてでるシルビア ・・・ 店の中で幽霊がでるといううわさが広まった。冗談のつもりでいたが、最もうわさにおびえている姫が睡眠薬を飲んで重態になってしまった。同棲している男は逃げている。店の中ではベテランと新人の間で反目もあり、それが原因なのか? センセー得意の幽霊話。仕掛けの割りにおとしどころはせせこましかったかな。むしろ姫たちの日常描写が面白い。

殴られるシルビア ・・・ 3年前に店を離れたベテランがシルビアに焼きを入れるつもり、そのために人数を集めているといううわさが届いた。詳細を調べると、ベテランの話を横で聞いていた男が、シルビアの姫仲間の髪結い。思い出した会話をワープロにしたので、頭をひねることになる。そこに、ベテランが重傷を負って入院したという話になった。いったい何が起きたの? ここでも主題は姫たちの日常会話の妙だな。

のぞき見するシルビア ・・・ 知り合いの姫が自宅で殺された、発見した男がロレックスの時計を持ち出したので疑われている、助けてほしいとシルビアに依頼が来る。風邪気味で熱っぽいシルビア、押しかけてきたマノンのオナニーをみて、殺しの様子を推理する。なるほど淫保というのは男の切実な問題なのだ。ここでも話の途中に、仁丹塔の取り壊しや、いしいひさいちの「ワイはアサシオや」のトレーナーの話が出るなど、風俗や時事のことに筆が伸びる。その分、推理の妙というのは後景に退き、浅草吉原界隈の様子のほうがおもしろい。


 最初は客の持ち込んだ謎を解決するという話が、次第に姫仲間のトラブルを解決するというように変わってきた。探偵力があるという名声を聴いてシルビアを訪れる客が増えるというのはリアリティに欠けるからねえ(とはいえ、元風俗嬢の私立探偵というハードボイルドがあっても驚かないぞ)。
 どこのwebページで誰が書いたかが、をすっかり忘れているけど、シルビア=滝沢紅子という説を唱えている人がいた。ナラティブが似ているとか、紅子シリーズが中断されている時期にシルビアシリーズが書かれているとか、再開後の紅子が過去に口をつぐんでいて友人たちもそれに触れないとか、いくつか理由が書いてあった。納得する説ではないけど、面白かった。でも、紅子より彼女の友人の江戸文学研究者(の卵)のほうがシルビアに似ていないかい。紅子は浅草吉原界隈の昔話に興味を持っていないように思うのだが。他の説も組み入れると、退職刑事=滝沢家であり(さらにホテル・ディックの田辺家かな)、紅子=シルビアであって、昔語りの老人は「東京夢幻図絵」に登場するような具合かな。ここらへんの小説世界が地続きになっているのを推測するのも面白い。