odd_hatchの読書ノート

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岩田規久男「日本経済を学ぶ」(ちくま新書)

 2005年頭に出た新書。「金融入門」「国際金融入門」「マクロ経済学を学ぶ」で勉強した後に、実践編のこの本を読む。

第1章 戦後復興から高度経済成長期まで ・・・ 戦後の経済成長は、政府の「余計な干渉はしない、勝手にやってください」という政策で実現した。1970年代以降の低成長は、エネルギー資源価格の高騰にあるより、地方分散政策と都心分散政策による生産性の低下(地方の使われない道路、都市の高価格なオフィス賃貸価格や渋滞などが典型)と設備投資の低下にある。あと、キャッチアップ効果がなくなったこと。
第2章 バブル景気から「失われた一〇年」へ ・・・ 1)バブル景気に至るまでは、円高でも輸出が好調(生産性が好調であった)で設備投資が活発でった。それによって資産価値がファンダメンタルズを超えて上昇し、企業の内部留保が増え、大企業の銀行離れが進む。貸出先が減少した銀行はリスク管理をおろそかにして中小企業や建設業などへの融資を増加。2)バブル崩壊は株価の上昇を懸念した日銀が金融引き締め政策に変換。株価と資産価値が急落し、不良債権が発生したことによる。ここで早期に金融緩和政策に変換すれば、経済の立て直しは早く進行したと思われる。金融引き締めはデフレを信進行させ、経済の停滞を招いた。
(1章と2章は伊藤修「日本の経済」(中公新書)を一緒に読んで、1970年以降の日本経済を概観できるようにすること。)
第3章 日本的経営とその行方 ・・・ 日本的経営の特長は、終身雇用制、社内教育体制(とくにOJT)、企業内労働組合とされる。それがバブル崩壊以後変化している。大きいのは経営者と労働者の利害が一致しなくなり、労働者の雇用が不安定になってきた。あと株主が経営に不満を申し立てるようになり、経営者は株主を考慮するようになった。日本的経営の優位な点は変化に対応できることにある。それはバブル崩壊とデフレ不況でも変わらない。ただし規制で保護されている業種には当てはまらない。国際競争にさらされている製造業には当てはまる。
(とはいえ、この頃(2014年)では金融保険関係は過去最高益をだし、製造業はあいかわらずの赤字に人員削減。)
第4章 日本の企業統治 ・・・ 企業が資金調達をする際、株式購入者や予定者は企業情報を正確に入手することが重要。ここで監査法人などの外部の監査、内部の監査が不十分で株主その他のステークホルダーに被害を与えることがあった。そこで会計の国際基準化が行われたり、企業の内部統制機能の強化が法で定められるようになった。砲で規制することは必ずしも、自由市場を棄損するものではない。
会社法と商法が21世紀になってから改正されて、会計とコンプライアンス、情報公開に強い指導が入るようになったことに対応する。)
第5章 産業政策と規制改革 ・・・ 旧通産省の産業政策は高度成長にほとんど寄与することはなく、むしろ貿易の自由化で競争にさらされた企業の成長が大きかった。旧大蔵省の銀行指導政策は1990年代以降生産性と競争力の低下になり、規制緩和が行われた。政府や官僚は産業政策の失敗の責任を取らない/取れない。また育成産業や企業を選択する能力を持たない。自由競争、自由市場のほうが利用者や消費者の利便に良いことが多い。なお、事故や不良などが生命にかかわる業種では適切な規制が必要とされることがある。
(ここの指摘は保護貿易、産業規制、民営化反対などを主張する「経済学者」への痛烈な反論。著者の指摘を抑えておくと、悪い「経済学者」をスクリーニングするのに使えるなあ。政府や官僚は産業政策、育成ではない別のこと、監視とか監査とか、は得意。)
第6章 構造改革と少子・高齢化 ・・・ 当時(2004年)進行中の話題について。郵政民営化は、ゆうちょの不効率・不公正があるので(政府の支援があるとか法人税の対象外とか)、市場の自由競争に参入するべき。財政赤字増税、高インフレで解決できるが、それよりも経済成長率のアップで税収増を狙うのがよい。税収が増えたら償還にまわし、減税はそのあと(バブルの時は償還しないで減税に、ばらまきだった)。地方財政や年金は受益者と負担者が一致していないのが問題。そこはうまく検討するべき。
第7章 日本経済の課題と経済政策 ・・・ バブル崩壊から失われた10年の日本経済の問題は「デフレ予想の定着」による需要不足。これを解決するには穏やかなインフレ目標(1〜3%)を実施して、経済成長率5〜7%を達成すること。そのうえで構造改革規制緩和をすべし(マクロ経済の安定なしでこれらを実施すると不況になる)。あと環境問題も経済問題に置き換える(たとえば炭素税の導入など)で素早く改善される(人々の意識の改革など全く念頭にないのがいさぎよい)。


 2004年執筆2005年初出で、すでにリフレ論はだされていたわけだね。そして当時の小泉内閣構造改革をコテンパンに批判(掛け声の割に、手をほとんどつけなかったのが功を奏した、とのこと。笑った)。著者は2013年に日銀副総裁に就任し、日銀もようやくインフレターゲット政策を発表。期待します(といってるそばから消費税増税だぜ、なに考えてんだか。インフレターゲット政策による経済成長を増税で止めてしまうたあ、なんちゅう了見や)
 えーと、この本なみの説明ができる番組をつくることをマスコミに要望。この本程度の知識もない「経済学者」や「タレント文化人」のたわごとを聞くのはつらいのでね。10年前の本で状況が少し変わったが、経済学の基本はこの本で押さえればよいでしょう。読むべし。

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