odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

フレドリック・ブラウン「天使と宇宙船」(創元推理文庫)

 1954年の短編集。SF作品を収録。「センス・オブ・ワンダー」とはこういうもんだ、と自信たっぷりな作者の笑みが見えてくるよう。

悪魔と坊や ・・・  ある奇術師の舞台。奇術の途中に火事が起こる。舞台にいた少年は水鉄砲で火を消したのだが、実はそこでは悪魔の世界征服の野望を打ち砕く奇怪な闘争が行われていたのであります。

死刑宣告 ・・・ 惑星アンタレスで殺人を起こした地球人の最後の夜。ブラウンにはこういう死刑囚最後の日というモチーフの小説が多いなあ。ラッセル「さあ息を吸って@パニック・ボタン」参照

気違い星プラセット ・・・ 太陽が2つあって8字形の軌道を描く惑星プラセット。さらに困ったことには、惑星プラセットではときに光の速度が遅くなるときがあるのだ。その時間帯は音が先に届き、人に幻覚をみせる作用がある。という魅惑的な設定をよそにして、辞職を願い出た所長のもとに恋をあきらめた美しい女性がやってきた。のこりわずか4日間、そのあと二人は別れなければならない。えーと、この国の言葉の持ち主にはわからないしゃれです。

非常識 ・・・ アメージングストーリー誌(アメリカ1930年代のSF雑誌)をコケにした(つもりで宣伝になっている)ショート・ショート。

諸行無常の物語 ・・・ 見知らぬ男が印刷機械(ライノタイプ)を改造したら、自意識もどきをもつようになったんだって。仕事をやめない機械に振り回される男たちは機械にある本を読ませることにした。

フランス菊 ・・・ 美人助手と研究する博士は植物との交信を可能にした。妻に研究成果を報告するため、機械を作動したとき、植物がしゃべったことは。

ミミズ天使 ・・・ 結婚を控えたサラリーマンに異変が起きる。ミミズが天使になって空を飛び、馬への鞭打ちを止めようとするとひどい日焼けになり、博物館ではカモが密閉された陳列棚で泣き喚き、宝石店に行けばエーテルを吸って気絶する。奇妙な事態は2日と3時間と10分おきに起こるのだった。アカシックレコードをこれだけコケにしたのもめずらしい。パタリロで何回かパスティーシュが描かれた。これは翻訳では絶対に分からないな。

大同小異 ・・・ 人間が虫ほどにしかみえない巨大な宇宙生物がやってきた。交信、攻撃、人間のすることはすべて通用しない。で、彼らの行ったことは? コメディになったA&B・ストルガツキー「ストーカー」(ハヤカワ文庫)

ユーディの原理 ・・・ 発明狂の友人がタイトルの原理で作動するヘッドギアを作った。自動制御自己暗示式副振動性陽加速装置。これを使うと、自分に暗示をかけて驚くほどのスピードで仕事を達成するのだ。今回は小説を書いてみた、そのあと気味悪くなって「死んじまえ」と命じた。銃声が聞こえたのになにもない。小説を見ると、たったいまおきたことが書いてある。という具合の言葉の迷宮。

探索 ・・・ 死んだ子供が天使になって神を見つけるお話(とはいえオチはすごいよ)。

不死鳥への手紙 ・・・ 放射線の影響で1日が45年になった男(18万年も生きてきた)の述懐。人類は存続し、同時に何度も破滅の淵に向かい、再び文明を築くだろう。しかし人類は狂気にとらわれているという認識。一方、永遠の生は恐怖だね、かな。

回答 ・・・ 銀河系サイズのコンピューターを作って最初に尋ねた禁断の質問。まだ真空管とリレースイッチでコンピューターを作っていた時代。

帽子の手品 ・・・ 学生の飲み会で手品のタネを見破った報復。答えは明らかになっていないが、ちょっと考えてぞっとすることになる。

唯我論者 ・・・ 極端な唯我論者(独我論のほうが正しいのではと思う)が自分の存在を否定したら?

ウァヴェリ地球を征服す ・・・ 電気と電波を食物にしている生物(?)に地球は征服されてしまった。おかげで電気と電波は使えない(内燃機関は動くが電気にしたとたんに吸い取られる。ついでに雷も光らなくなる)。そこで人々がとった施策は。生物とはコミュニケーションが取れないので、いないのもおなじ。というわけで、電気のない世界(書かれたたのは1958年なのでそれほど昔に戻るわけではない。たぶん主人公たち、当時30代にとっては父や祖父母たちの生活)にもどる。このとき、混乱は起きないし、政府は変化にすぐに対応するし、人々も不便を不自由に思わない、という具合。2011年から見ると、来るべき世界だな。このショートショートみたいに合理的に変化がおきればなあ。参考は、ウィリアム・モリス「ユートピアだより」(岩波文庫)アーネスト・カレンバック「エコトピア・レポート」(創元推理文庫)

挨拶 ・・・  金星人との最初で最悪のコンタクト。


 1950年代はSF黄金時代といわれ、それを担ったのはたしかにアシモフハインライン・クラークというようなビッグネームではあるのだが、こういうB級の作家が大量の作品を作ったことも黄金時代を支えた原動力であるのだ。ブラウンを読むと当時最新のテクノロジーが集積しているラジオ・TV・出版界を舞台にすることが多く、その描写がSFアイデアを補強しているのだと考える。この人は根が楽観主義者なので、深刻になることや読者に考えさせることが少ないのも、スケールを小さく見せることになっている。しかし、アイデアの豊穣さにかけては天下一品。