odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

明石康「国際連合」(岩波新書) 国際連合はEUよりも行政権限は少ないし、経済に直接介入できないし、軍や警察などの司法組織を持っていない。

 たとえば「宇宙戦艦ヤマト」では、仇敵ガミラスの滅亡の後、地球は人種や民族を止揚して世界政府をつくる。そういう想像力はユートピア文学やSFによくあって、たいていの未来社会はそんな感じ。さかのぼれば、トーマス・モアカンパネラらに、さらにはプラトンにまでたどり着けそうなイメージだ。
川端香男里「ユートピアの幻想」(講談社学術文庫)
で、われわれは第2次大戦後にできた新しい組織「国際連合」にそのようなイメージを押し付ける。そのために、国連がさまざまな紛争に「介入」するときに、短期間では成果が現れないことにいらだったり、国連の機能や権威を軽んじたりするようになる。

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 そのような思い込みが誤りであることが、長年国際連合で仕事をしてきた著者の説明を読むと誤りであることが分かる。これを読むと、国際連合EUよりも行政権限は少ないし、経済に直接介入できないし、軍や警察などの司法組織を持っていない。もともと加盟国の意思による自発的な国際協力を行う組織。個々の主権国家の意思が最大限に尊重される。国連の決議は勧告であり、道義的政治的な説得力によって当事国が自力で解決・改善することを求める。
 上記のような超国家的な政府を志向したものではない。戦争や内乱などで国連が介入し、ときに軍隊を派遣することがあるが、加盟国の中から費用や人員、装備などを負担し、指揮命令権は加盟国の中の主要な国に移譲する。そのうえ、戦争や内戦においては紛争当事者の間にはいって、双方が接触しないように切り離し、相互の信頼が醸成されるよう促す。どちらかに加担して、相手を撃破・殲滅するようなやり方はとらない方針を保つ。実際に、第2次世界大戦以降、数々の紛争や内乱に介入してきた。本書の記述は、主にこの分野を対象にしている(著者がそのような平和維持活動を長年担当してきたので)。
 国連の機能はほかに、平和と安全に関するもののほか、途上国問題、人権がある。自分の関心では人権に関する機能に最も魅かれる。本書ではその記述は少ないが、重要に思うので、ここはまとめておく。
 国際連合の誕生の際には、ファシズムとナチズムの記憶があり、そこでの人権侵害や蹂躙を克服しようとする強い意志があった。発足直後に、世界人権宣言1948年を出し、以後ジェノサイド防止1948年、人種差別撤廃1965年、女性差別撤廃1979年、拷問禁止1984年などの条約や宣言を採択している。採択するだけではなく、履行監視の専門委員会を設けて、加盟国を毎年順に審査している。この国連の人権活動をまとめると、1.関連する基準の制定、2.人権の履行ぶりの監視と促進、3.専門家の派遣とその助言と技術協力を通じての実施支援、4.違反行為に対して行われる執行活動、となる。自分の関心のある人種差別についていうと、日本は2008年、2012年、2017年に審査が行われ、そのつど改善勧告がなされている(勧告件数は2008年:22件→2012年:174件→2017年:218件と推移)。2016年1月にはヘイトスピーチ問題で国連担当者が来日するなどしている。このような国連の人権に関する活動の理念が、人間の安全保障@アマルティア・センであることに注目。
参考エントリー:
アマルティア・セン「貧困の克服」(集英社新書)
アマルティア・セン「人間の安全保障」(集英社新書)
 まだトピックはあるが、ここでは省略(記述のしかたが報告書のようなので、なかなか頭に入りませんでした。すみません)。
 民主的・参加型組織なので、国連に水戸黄門大岡越前のような超越的な善政を期待してはならず、参加と提案を繰り返して盛り立てないといけない。そこは民主主義の組織。