odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-2

2022/05/19 文京洙/水野直樹「在日朝鮮人」(岩波新書)-1 2015年の続き

 

 後半は日本の敗戦後。日本にいることを選択した/余儀なくされた在日朝鮮人の歴史や記録は多数でている。自分が読んだのは以下の数冊だけ。勉強不足です。
2019/4/26 福岡安則「在日韓国・朝鮮人」(中公新書) 1993年
2019/04/25 朴一「「在日コリアン」ってなんでんねん?」(講談社α新書) 2005年
2020/03/05 徐京植(ソ・キョンシク)「在日朝鮮人ってどんなひと? (中学生の質問箱)」(平凡社) 2012年
 以下の章で明らかになるのは、戦後日本は在日朝鮮人日本国籍を持つ臣民から外国人にして、過去の犯罪をなかったことにし、取り締まりと排斥の対象にしているということ。

第3章 戦後在日朝鮮人社会の形成 ・・・ 1945年の日本敗戦以後。朝鮮の解放(光復)ととらえ、在日朝鮮人の組織化政治化が始まる。敗戦直後に帰国する者もいた(150万人と推計)、一方残留者もいる(50万人と推定)。日本はアメリカ一国統治だが、朝鮮は4カ国統治。統治国によって方針が異なるので、政情は不安定。1950年には朝鮮戦争勃発。停戦時に二国ができた。日本国内では朝鮮人を外国人と扱う施策がとられる。参政権がなくなり、戦前戸籍法に基づく外国人登録令が出、1952年のサンフランシスコ講和条約在日朝鮮人の国籍がはく奪される。国内では差別と貧困が慢性化。生活保護に頼る人が多数いるにもかかわらず、打ち切りが行われた。共産主義の影響から国内の朝鮮人組織は分裂。1954年ころから帰国運動が始まり、1957年に最初の帰国者がでる。
(このあたりは教科書が教えない日本史。植民地の人々を皇国化していたものをいきなり外国人として排除した。この破廉恥さは直視しなければならない。この後在日朝鮮人はさまざまな運動で権利を回復していった。21世紀の日本のレイシストや排外主義者はこの時代(昭和20-30年代)に戻したいという欲望で差別や排斥を実行するのだ。)

第4章 二世たちの模索 ・・・ 1960-90年代。国内では、日立就職差別裁判闘争と入管闘争が重要。革新知事との協力などで、公務員の国籍要件がなくなるほかの成果があがる(しかし就業後の昇進・昇給や労働環境での差別は残る)。民団と総連は韓国軍事政権や北朝鮮政府の意向に強く影響される。
(民団と総連の紆余曲折が詳述されるがまとめからは割愛。21世紀にはどちらの組織も変わったので、もはや拘泥する必要はない。民族学校・民族教育もカリキュラムや目的は大きく変わった。むしろ、日本の外国人の就職や行政管理などが50年を経ても改善しないことのほうが問題。)

終 章 グローバル化のなかの在日朝鮮人 ・・・ 1990-2015年。1990年代は歴史認識で日韓関係は改善。しかし2000年以降、日本の極右・レイシストバックラッシュ(そのために在特会他の差別団体が活動を開始し、ヘイトスピーチが蔓延した)。国内の在日外国人の構成が変化。朝鮮人が減り、中国・台湾・東南アジア・中南米にルーツを持つ人が増加し、200万人を超える。国際結婚も増える。朝鮮人のニューカマーが増える。そのためオールドカマーの民団や総連は規模が縮小。
(韓国は軍事政権時代、在日朝鮮人棄民政策をとっていたが、1990年代の民主化で多民族主義を制度化している。外国人参政権などを認め、外国人労働者の労働環境を整備しようとしている。そのため東南アジアでは日本に出稼ぎにいくな、韓国や台湾に行けとなっている。)
(日本人による人種差別やヘイトスピーチに関しては、「反差別」カテゴリーの感想を参照。)

 

 後半の章では、ページを大きくとって、在日朝鮮人の70%以上になった二世たち(1960年代の推計。21世紀にはすでに5世6世まで誕生)のアイデンティティ問題が整理される。マジョリティである俺には、このようなアイデンティティを回復・獲得する心の機敏はわからない。そのようなことを考えずにすむのがマジョリティだからだ(それに日本の経済が衰え、他のアジア諸国が日本を追い抜いてしまうのをみると、日本人は排外主義に基づくナショナリズムを持つようになるのだ)。日本人はナショナルアイデンティティに無頓着であるし、外敵があったと扇動されたときには「愛国心」を持つが、その内実が統合・統一されているわけではない。たいていは権力のプロパガンダに沿うように愛国心は作られる。マジョリティがそのような事態を無視して、マイノリティにアイデンティティを要求・強制するのはおかしい(しばしばそれはレイシャルハラスメントになり、同化の強要になりかねない)。
 したがって、在日がどのようなアイデンティティを持つかにマジョリティは関心をもつのではなく、日本のシティズンシップをどのように制度化するかという問題でとらえるべきだと思った。個人の内面よりも、どのような選択であっても受け入れらえる市民権の枠組みを作るほうを優先。在日が使える制度であれば、他国からの移民・労働者・難民にも適応できる。
<参考エントリー>
2017/05/26 宮島喬「ヨーロッパ市民の誕生」(岩波新書) 2004年
 残念ながら、シティズンシップの取り組みでも、21世紀の日本は韓国に遅れている。外国人参政権はすでに施行済。

 

 

角南圭佑「ヘイトスピーチと対抗報道」(集英社新書) 2016年のヘイトスピーチ解消法施行以後の状況。在特会の活動は激減したが、無名の人々がカジュアルに「悪意なく」差別するようになった。

 このブログで取り上げてきたヘイトスピーチの記録には以下のようなものがある。
2019/04/22 有田芳生「ヘイトスピーチとたたかう!――日本版排外主義批判」(岩波書店) 2013年
2019/04/19 神原元「ヘイト・スピーチに抗する人びと」(新日本出版社) 2014年
2017/05/09 笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-1 2016年
2017/05/08 笠井潔/野間易通「3.11後の叛乱 反原連・しばき隊・SEALDs」(集英社新書)-2 2016年
2019/04/18 安田浩一「ヘイトスピーチ」(文春新書) 2015年
2019/04/15 野間易通「実録・レイシストをしばき隊」(河出書房新社)-1 2018年
2019/04/12 野間易通「実録・レイシストをしばき隊」(河出書房新社)-2 2018年
 共通するのは2013年までで記述が終わり、その後の状況を概観できるものがなかった。本書は2021年に出版されたので、2016年のヘイトスピーチ解消法施行以後の状況が書かれている。路上のヘイトスピーチの問題はデモや街宣を繁華街や集住地区などで行うことだったが、抗議者がでることによって件数と参加人数は激減した。しかし、ヘイトスピーチは別の場所に移るようになり、むしろ件数は増えた。

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 差別のピラミッドをみると、差別には5つのレベルがある。1.偏見、2.偏見による行為、3.差別、4.暴力、5.ジェノサイド。2と3の間の違いは、レベル1と2が単独者の行為であるか、集団の行為であるか。戦後の日本社会ではレベル3からそれより上になることはめったになかったが、1980年以降には頻繁に行われるようになる。21世紀になると在特会のような市民団体が定期不定期に3の差別行為をするようになった。それを市民の抗議で抑える動きが起き、デモや街宣の示威行為は減ったが、かわりに2と4が増え、差別の対象を広げた。日本の特定民族だったのが、障がい者生活保護受給者・貧困者・性的マイノリティ・特定宗教信仰者などにもむけられるようになった。加えてヘイトの現場が路上や文書だけでなく、ネット(とくにSNS)に拡がる。政府や行政がヘイトを抑えるどころか差別の発信者や行為者になっている。過去の歴史を否定する運動もある。標的にするのは、朝鮮人強制連行、慰安婦南京大虐殺関東大震災朝鮮人虐殺など。これらを否定することで、被害者の特定民族の尊厳を否定する。くわえて皇国イデオロギーの復活をもくろむ。この歴史捏造のヘイトは政府や自民党公明党が積極的に行っている。

 このような10年代の動きが紹介されている。なるほど路上で「死ね」「ゴキブリ、ウジムシ」「国へ帰れ」と法務省ガイドライン違反のヘイトスピーチを発するものは減少したが、いまだに続けるものは教育や啓蒙で変わることはまったく期待できない(これを行政や司法は認識していない)。
 かわりにとてもカジュアルに「悪意なく」差別をふるまうものが増えた。レイシャルハラスメントやマイクロアグレッションなどが蔓延している。差別団体のデモや街宣に参加したことのない市民が、中傷を書き込んだり、弁護士の懲戒請求をしたり、脅迫の手紙を出したり、放火したりしている。犯人が見つかり有罪になるものはわずか。
 上掲の図にあるように、個人と政府がヘイトスピーチを進めているとき、差別を減らすには、いくつかのことが必要。差別を見たときにすぐに抗議できるようにすること(「私は差別しない」から「私は差別を止める」へ)。路上のヘイトに抗議する、身近な人のヘイトを指摘してやめさせる、ネットのヘイトが行われないよう企業に広告出稿停止を要請するなど、さまざまなやり方がある。ふたつめは、政治家が差別行為に対してすぐに反差別のメッセージをだすこと。これは欧米では当たり前に行われている。しかし日本では国会議員から地方自治体長まで、反差別のメッセージを出すものはほとんどいない。企業でもそう。三番目には、反ヘイトの法律を作ること。できれば罰則付きで。地方条例でヘイトスピーチを禁止することは可能で、具体的なやり方や在り方はリンク先を参照。
2020/03/09 前田朗「ヘイトスピーチと地方自治体」(三一書房) 2019年
 このような2021年時点のヘイトスピーチ問題を見ることができる。類書はないのでとても貴重。

 

今野晴貴「生活保護」(ちくま新書) 生活保護のバッシングとヘイトデマを止めるためには本書の知識を持つことが必要。

 差別者、レイシストは外国人生活保護の廃止を要求する。それに対抗するために、連中が言っていることを調べて、デマばかりであることを明らかにしたことがある。

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 メディアの報道など断片的な知識は入っても全体の知識がないので、生活保護行政の問題解決にあたるNPOが書いた啓蒙書を読む。初出の2013年は、片山さつき世耕弘成などの議員のデマ発言、芸能人の生活保護バッシングなどがあり、生活保護法改正の審議があった年。

不正受給問題を巡り、生活保護への「バッシング」が高まっている。バッシングは政治問題にまで発展し、いまや取り締まりの強化や支給額の削減へと議論は進んでいる。しかし、私たちは生活保護の実態を知っているのだろうか?自殺・餓死・孤立死―。そこには追いつめられ、専厳を踏みにじられ、果ては命さえも奪われる現実がある。本書は、受給者をとりまく現実が、日本社会になにをもたらすのかを解き明かす。「最後のセーフティネット」の抱える本当の問題をあぶりだす、生活保護問題の決定版!
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480067289/

第1章 生活保護の現場で何が起きているか ・・・ 政治家やマスコミの生活保護バッシングによって、違法な対応を取る自治体が増えている。もともと申請にあたり財産処分やプライバシーの侵害が行われやすいうえに、上級官庁の指示を無視する。

第2章 命を奪う生活保護行政 ・・・ 違法行政のやり方は、1.水際作戦と称される申請拒否(20%という低捕捉率)、2.受給後のパワーハラスメント(とくに就労指導と辞退届提出の強要)、3.制裁と追い出し。各地で貧困死(餓死、孤立死共)が発生している。

第3章 保護開始後の違法行政のパターン ・・・ ケースワーカーの問題。法律と官庁のケースワーカー依存(人手不足、専門性不足)、ケースワーカーの不良化(マニュアル対応と差別意識)。貧困ビジネスの横行。おおもとは生活保護の予算削減圧力。戦後のセイフティネット行政がその場しのぎで、十分な予算がない。マスコミや政治家の生活保護バッシングを行政やケースワーカーが利用している。

第4章 違法行政が生保費を増大させる ・・・ 生活保護制度の逸脱は、日本社会全体の貧困化、労働環境の悪化をまねく。その結果、自立できず、難民化させる。原因の一つは雇用形態。労働者が多いので企業が選別と使い捨てを推進。うつ発症→働けない→生保申請→制裁の循環で人間を破壊していく。政治家(片山さつき世耕弘成など)のプロパガンダとメディアのバッシングが状況を悪化させる。貧困ビジネスが典型であるは生活保護者を自立させないことで、余計なコストを国民が負担させられている。日本人のコスト意識が短期的なので、高コストを自ら招いている。

第5章 生活保護問題の構造と対策 ・・・ 生活保護ワーキングプアと比べると収入が多く見えるような「優遇」であるとみなす。日本の福祉は企業が担ってきた(大日本帝国は福祉をほとんど行わなかった)が、企業が福祉を行わないようになり、もともと生活コストの高い日本では低所得ではほとんど福祉やセイフティネットが機能していない。生活保護バッシングに対しては日本の雇用形態や福祉行政まで批判する必要がある。また行政担当やケースワーカーの質を上げること(ここも低賃金で不安定な職種)、自立支援の制度化も進めるべき。

終章 法改正でどうなるのか ・・・ 2013年生活保護法改正の問題点

 

 2011年の東日本大震災、2020年からのコロナパンデミックによって生活基盤を奪われ生活保護申請をする国民が増えた。しかし、彼らに対して国民は冷淡(どころかハラスメントを加える)であり、行政は予算削減を続けた。多くの人が貧困死(自殺、病死、餓死など)に至っている。
 具体的な改善策について、素人の俺はどうこういうことができない。現場で苦闘している人たちの支援をする仕方で行こうと思う。それとは別に、差別者・レイシストのヘイトデマに対抗することを優先しますが。
 ここでは日本人の「精神」について。生活保護を「優遇」とみなすような人権無視や公権力追随をどうみるか。ワーキングプアよりも収入が多く見えるということだけで、バッシングする。弱いものに対してとてつもなくサディスティックになる。目先のコスト削減(この場合は生活保護支給抑制)がよりコストを増やすこ徒になることを理解しない。自分と同じような貧困に全員が陥ることを望むマゾヒスティックな感情。社会とケースワーカー生活保護者に向けて激しい差別意識をもっている。ことにケースワーカーが起こす拒否や暴言、制裁はヘイトクライムというべき事案になっている。ときには女性の生活保護者(ことに離婚後のシングルマザーが生活に行き詰った場合)には女性差別が加わる。

 

 

 

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