odd_hatchの読書ノート

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チャールズ・ライク「緑色革命」(ハヤカワ文庫)

 原著1970年。すぐに邦訳されて当時の学生たちに多く読まれたらしい。真崎守「共犯幻想」で主人公の一人がガサ入れされる直前に、資料を整理するという場面で、彼女の所有する本にスーザン・ソンタグ吉本隆明といっしょにこの本があった。文庫化は1983年。その当時購入したものをようやく読了することができた(2004/02/15)。現在は品切れ。
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 この本は1960年代後半からの主に先進国で起こった若者・学生の変化を認識しようとする試みだ。書かれた当時の現実分析であるので、起きた事象についての解説はほとんどない。今から読もうとすると、この時代に関するある程度の歴史・社会的な知識を持っていないとわかりにくいだろう(ベトナム戦争公民権運動、ロック、ドラッグ、ヒッピー、アポロ、キューバ危機、紅衛兵五月革命カルト教団アメリカンニューシネマなどとこれらに関係する固有名詞多数)。著者42歳のときのもので、若者・学生の側にたった議論を展開している。主には、アメリカの若者文化の変化を記述し、それを引き起こした原因として大量消費文化や官僚制、大企業の組織運営、それらを支配するものなどを考察、批判し、批判点を解決するあり方として当時の若者の意識や気分を称揚し、そこに基礎を置いた「革命」の展望を語っている。あいにくのことながら著者の議論は、あまりに繰り返しが多く同じ話を聞かされてうんざりすることになり、羅列は多いものの分析的ではなく、資料や統計を欠いているので説得力のあるものではない。その点では1950年代にアメリカの社会学者の行った社会研究からは数段落ちるできばえであり、当時のベストセラーとしての興味はあっても、学問研究の対象に耐えうるものではない。
 それでもいくつかの発見があって、1.統合国家(官・企業・制度の一体になったもの)のアイデア(これはウォーレンスタインの言う資本=ネーション=ステートの三位一体を言い換えたものとみなすことができる)、2.いくつかの逆説(法を整備するほど無法になる、経済が発達するほど貧困になる、教育するほど無知になる)、などは面白いものであった。
 著者は、「意識」の革命こそが新しい世界の創造に必要と説き、それを基盤に置いた共同体(コミューン)の設立を空想する。同時代に読まれたセオドア・ロザークやチャールズ ヴィルヘルム・ライヒなども同様の提案をしていたことを思うと、ライクの考えがとっぴなものではなく、また当時の若者の気分や思想にも合致したものであったということができる。
 残念ながらそれから30年を過ぎたところから振り返ると、現実は彼らの思想を裏切らざるを得なかった。それは意識の解放に使われた手段が法の制約下に置かれるようになったり、当時の若者の作ったコミューンが内部・外部的に解体していったことであきらかになる。著者が唱導する「意識」はカーニバル的・衝動的・破壊的であり、現実の問題の指摘や改善の力には向いていたとはいえ、生活を続けることには向かなかったことにある。欠けているのはモラルと組織論と経済に対する考察だった。
 論の途中には1960年代後半のアメリカのロックバンドの名前と歌が羅列されている。ロックを演奏することと聞くことが反体制とみなされることであり、野外のロック演奏会(フェスティバル)が反体制運動であるとみなされた時代の反映。
<参考エントリー>
アーネスト・カレンバック「エコトピア・レポート」(創元推理文庫) - odd_hatchの読書ノート
ミヒャエル・エンデ「オリーブの森で語りあう」(岩波書店) - odd_hatchの読書ノート
笠井潔「国家民営化論」(知恵の森文庫) - odd_hatchの読書ノート