チャレンジャー教授初登場作。相棒の新聞記者マローンはこのあとの作にも登場。
学会の異端児チャレンジャー教授は南アメリカの博物学旅行の際に、恐竜をスケッチしたと思われる冒険家の遺品を入手した。さっそく講演会で発表すると、侃々諤々の大議論。反論をやめないサマリー教授、若い冒険家サー・ジョン・ロクストン、向こう見ずでロマンティックな記者マローンの4人でパーティを組むことにした(というのはプロジェクトのメンバー選考のミスではないかな)。ブラジルに入りアマゾン河をさかのぼる。遺品の地図を手掛かりに調査すると、支流の奥にとても登れそうにない崖に囲まれた台地を発見。黒人の従者やインディアン(ママ)の協力を得て、4人は台地に到達。そこは恐竜が住むところであり、ミッシング・リンクの猿人とインディアンの土人(ママ)が対抗している先史時代の地域だった。
ここまでの展開は、19世紀の秘境冒険小説のなごり(ハガード「ソロモン王の洞窟」やスティーブンソン「宝島」など)。そこに19世紀末の考古人類学と恐竜学の知見をちりばめたところがこの作のみそ。博物学の冒険旅行が実際にそうであったように、貴族がパトロンになって資金を提供し、冒険博物学者が危険を顧みずに秘境・辺境にはいっていった。
最初の発見者「メイブル・ホワイト」の名を付けた台地は、中央に湖があり、周囲を高い山に囲まれている。一歩歩くごとに新種を発見するようなエリアであり、特に目を引くのは翼竜やその他の恐竜が集団で暮らしているところ(飛翔する翼竜に彼らは襲撃され、森に逃げ込んで難を逃れる)。それよりも困ったのは、森の中を縦横無尽に動き回る猿人の存在。マローンがひとりで探検に出かけている間に、残りの三人が猿人につかまり、殺されそうになる。サー・ジョンはすきを見て逃げ出し、マローンと合流して、二人を奪還。その際に、猿人にいけにえにされていた土人(ママ)が彼らに感謝し、従順の意思を示し、協力して猿人を退治する。台地に平和が訪れたが、脱出路が見つからない。チャレンジャー教授は自然に噴出するガスを使った気球を考案するが、うまくいかない。どうすればいいか・・・
後半になると、記述のあちこちにいらだつようになってくる。猿人が攻撃・暴力的であるというのは、当時の差別観の反映(ヘッケルが、猿人-原人-新人-現生人類のような階層を捏ね上げたとき、下位の階層は野蛮で無知という否定的な描き方をしたものだ)。さらには、西洋人が土人(ママ)を指導するというのは、当時の植民地化の肯定的な表現。土人(ママ)の文化を理解しようとせずに、西洋人のもたらすものが土人(ママ)の生活・文化・社会をよくするという、とても高慢な考え。そのような差別的な視線は、従者になった黒人や荷物を運ばせたインディアン(ママ)にも向けられる。21世紀にこの本は入手困難になってるようだが、しかたあるまい。1912年には「常識」とされたことが百年後にはダメになることは多いのだ。
この小説は1925年に映画化されている。モーションピクチャーを使って、恐竜が人と襲うシーンを描いたので有名であるが、上のような猿人や土人にかんするエピソードはなかった。そこは見識。(かわりに原作には登場しない女性が探検パーティに参加している)
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ドイルは長編はうまくないと思っていたが、どうやらそれは探偵小説の場合であるようで、この長編はストーリーの運びが自然でのびやか。読みやすい。高慢でおこりっぽくきかんきでやんちゃなチャレンジャー教授、僻みっぽく愚痴のおおいサマリー教授、ジョン・ブルの貴族の典型であるサー・ジョン、若くて短慮で無鉄砲だが魅力的なマローン、とキャラクターの描きわけはよくできている。ドイルの筆はこういう冒険小説にむいているのだな。
そういうよいところも、上のような差別的言辞で台無し。偏見であるのだが、このようなレイシズムがのちのオカルトへの傾倒に至ったのではないかと妄想。
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