odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの事件簿」(創元推理文庫)-2 戦間期になるとドイルは二流の作家に成り下がる。

 「シャーロック・ホームズの帰還」「恐怖の谷」などのホームズ復活後の作品は押しなべて、興味のわかないものだったが、ここにきてますますその感が増す。コナン・ドイルは二流の作家(たとえば、ライガー・ハガードやスティーブンソンにも劣る)。ホームズというキャラクターを創造したこと(モデルは中世の騎士物語)でその名が残った。


ソア橋 Thor Bridge ・・・ 資産家の貴族の妻が屋敷の端のたもとで射殺されていた。嫌疑が庭師にかかったが、動機がない。というのは、貴族は妻を嫌うようになり、若い女性と恋仲になっていたから。ホームズは橋を捜査することで、事件を解決する。このトリックはヴァン・ダインの長編で有名であるが、このホームズ作のほうが少し早い。ヴァン・ダインによると犯罪実話にあったというから、独自に発見したのだろう。

這う人 The Creeping Man ・・・ 61歳のプレスベリー教授が若い女性と婚約した。それから教授の様子がおかしい。怒りっぽくなり、陰険になり、夜中に屋敷の中を四つん這いで徘徊する。いったい何が起こった。自分は別の解釈もたてたが、予想通りの「ジキル博士とハイド氏」風の決着。これは「トリック」を含めて良くない。1903年9月の事件でホームズ引退直前のものとのこと。

獅子の鬣 (たてがみ) The Lion's Mane ・・・ 海辺で真っ青な顔になった男が「ライオンの鬣」と言い残して死んだ。背中には鞭で打たれた痕。しばらくして飼い犬が同じ場所で、けいれんして死んでいた。数日後、男に敵愾心をもつ男(容疑者)が同じような症状を起こし、瀕死の状態で担ぎ込まれた。ホームズが自分で書いたという設定。ほとんどハードボイルド。

覆面の下宿人 The Veiled Lodger ・・・ ベールをかぶって外に出てこない女性。あるとき、彼女が自殺を考えているらしいと下宿屋の女将がホームズに相談にきた。7年前にサーカス団で起きた事件(夫が殺された)の真相を語りだす。1920年代には、小説にでてくるような巡回サーカス団はほぼ無くなった。こういう事件を起こすには30年前の1896年におきたことにしないとリアリティがないという判断なのだろう。1900-20年ころまでの無声コメディ映画にはサーカス団が舞台になり、ライオンが登場するものがたくさんある。当時の俳優には勇気のあったこと(ライオンになめられたり、小屋に一緒に閉じ込められたリ、追いかけられたリ)。

ショスコム荘 Shoscombe Old Place ・・・ ダービーの優勝候補になっている馬主の貴族がいる。借金でくびがまわらないので、今度のダービーに賭けている。屋敷の持ち主は貴族の妹だが、いさかいをおこしているという噂なのに、最近出入りがない。そのうえ貴族は納骨堂に深夜足を入れているらしい。ホームズは貴族が最近手放した妹の犬から推理する。wikiによると、ドイルが執筆した最後のホームズ作品とのこと。

隠居絵具屋 The Retired Colourman ・・・ 老いた隠居絵具師が自分の現金と有価証券もって妻と不倫相手が逃亡したとホームズに相談にきた。絵具師の家にいくと、ペンキを塗っていて強烈な悪臭。絵具師がいうには、いなくなった夜に妻と相手は劇場にいったという。ワトソンが調べると、その席には誰もいなかった。


 「這う人」と「獅子の鬣」は読者には未知の動物によるもの。「まだらの紐」と同じ解決だが、後者のような爽快感がないのは、人為がないのと、「真犯人」の邪悪さが罰せられないところにある。それにしても1920年代に書かれたと思しき短編で、19世紀風の博物学趣味がでてくるというのは何とも不可解。というか懐古趣味。
 もうひとつ。時代の制約のためと留保をつけたいが、「事件簿」になって疾病や人種に対する差別意識が出てくる。ここは今日読むにはとても耐えがたいところ。まあ、時代の制約ということでぐっとこらえよう。たしかBBCはホームズ譚の全作品をドラマ化したと思うが、それらの作品はどのように処理したのだろう。


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