日本に住む朝鮮にルーツを持つ人たちが日本をどう見ているかは、たとえばこれらが参考になった。そこからわかるのは、数十万人数百万人もいるグループだから、考え方は多種多様。ルーツが同じという属性だけで均質な集団になっていると思い込んだら大間違い、ということ。
福岡安則「在日韓国・朝鮮人」(中公新書) 1993年
徐京植(ソ・キョンシク)「在日朝鮮人ってどんなひと? (中学生の質問箱)」(平凡社) 2012年
では、大韓民国にいる人たちは日本をどうみているのか。それを主にテキストをもとに組み立ててみる。それが1998年にでた本書。社会学的な調査やアンケートなどを取ったわけではないので、そこは注意。
おおざっぱに言うと、韓国人の日本人イメージには2つの類型がある。「ずるがしこく、残忍、悪辣、野卑で利己的」というものと、「勤勉で親切、誠実、質素で礼儀正しい」というもの。ネガティブなイメージとポジティブなイメージの両方がある。どちらも歴史的経緯で形成されたもの。韓国から見た日本の歴史でも、倭寇や朝鮮征伐や植民地支配の記憶があり、中国文化を日本に伝達したという優位性の記憶がある。どこにフォーカスするかなどで蔑視と懐疑、賞賛と敬意のどこに比重を置くかが変わる。またWW2以後には世代間差異も大きい。著者は韓国の戦後を3つの時期にわける。
第1期:1945-1965
第2期:1965-1982、反日反共ナショナリズム
第3期:1983-1998、韓国ナショナリズムの形成期
これ等の時代でナショナリズムの在り方が異なった。それにこの期間を通じて、日韓市民の文化交流はとても乏しかった。軍事政権は日本の資本を受け入れたが、日本の文化は遮断していたので。それに日本が経済的に優位だったので、そこにコンプレックスが生まれたり賞賛しすぎが生じたり。
21世紀に読むと、第4期:1999-現在を設定する必要があると思う。韓国は10年おきくらいに全国的な民主化運動が起きて、軍事政権や独裁政治を打倒する経験を積んできた。21世紀になってから日本の経済は停滞しているが、韓国はめざましく発展している。日本の平均所得を超え、KPOPやドラマなどはワールドワイドなファンをもっている。そうすると文化的優位や経済的優位を必要としない対等な関係を持つ可能性がこの次の第5期以降に生まれるのではないかと期待する。
いくつかを箇条書きに
・日本人の韓国イメージは昭和20年代に作られた「恐怖、警戒、厄介、複雑、理解不能」が継続している。(21世紀のレイシズムも、この程度の韓国人イメージに基づいている。)
・著者によると、日本人の「『償いをすませていないもの』と『本当は相手を許していないもの』との『真の精算、真の和解』を志向する態度は、日韓を過去志向的で不平等な関係につなぎ止めるもので、それは韓国人にとっても日本人にとっても好ましいことではない」。なるほど、日本人の無意識で善意の友好関係が不平等な関係に根差していて、それを強化しかねないというのは注意しなければならない。俺のように生涯のほとんどで日本が経済的優位にあるものはこういう思い込みや偏見をもっているのだろう。求めるのは対等の関係。これは同質ではあるが内部にヒエラルキーのある日本社会に住む者には難しい。