odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-1「地獄篇」 コペルニクスより前でもすでに地球は球であることがわかっていた。地球の中心に向かう地下に地獄がある。

 13-14世紀の詩人で政治家のダンテが書いた畢生の大作。成立の背景その他はwikiを参照。

ja.wikipedia.org


 すでに森鴎外の紹介以来数種の翻訳がでている。岩波文庫集英社文庫などで入手可能。でも、厳格な規律に従って書かれた700年前(1300-1320年にかけて書かれたらしい)の文章を注釈なしに読むのは辛いので、現代教養文庫ででた散文訳を読むことにする。縮約ではなく、編者による解説が本文に加えられた版のようだ。なので、本文と注を行き来しないで読むことができる。なお、編者の考えがあってか、いくつかの訳語は通常使われているものと違う。「浄罪篇」「天堂篇」など。そこは慣れるしかない。


 さて、編者によって近代文学と同じ体裁になったとはいえ、700年前の「中世」と言われている時代の文章を当時の知識や思考と同じように読むのは難しい。浄罪篇の途中から先には説教や教義の説明が出てくるが、これを受け入れるように読むのも難しい。そういう不充分な読者であるが、ともあれ、筋を追うことにしよう。本書には「歌」の前に編者による概要がのっている。それを記録し、自分の気になったところを追加した。この表をみればだいたいの筋はわかる。世の中には「神曲」の宇宙図を一枚の絵に起こしたものがあるので、時に目ととおすのもよいだろう。
荒俣宏/金子務「アインシュタインの天使」(哲学書房)

 感想を書くのも難しいので、ともあれ気づいたことをメモするだけにする。
1.地獄篇
・ダンテはフィレンツェにうらみつらみがあるのか、実在の政治家・詩人を登場させて、地獄の責め苦に合わせる。都市そのものが堕落していて、よほど深く反省しないと、神の恩寵にあずからないと警告する。(天堂篇を見ると、ダンテの鬱屈というか義憤が地獄から天堂までを巡らせた理由だった。神はダンテにフィレンツェの宗教すなわち政治改革を命じる。)

・地獄はとても厳密な階層でできていて、9つの圏から構成されている。ダンテの詩文も厳密な規律に乗っ取るなど、秩序と安定にとても注意深くなっている。そこからプトレマイオス宇宙論を思い出すわけで、幾何学的な構成になっていることが神や超越者の意図の現れであるというわけなのだ(荒俣らの前掲書をみるとアリストテレス宇宙論であるとのこと)。

・ダンテの時代はコペルニクスの前だが、地球が球状であることは当然の前提になっていた(地獄は地球に中心に向かう地下にある。地獄を抜けて浄罪界にいくが、そこは南半球にあるイタリア(という考えはあったのかしら)の対蹠点なのだ。(wikiによると、地獄は「ペトロ黙示録(新約聖書外伝)」に依拠しているというから、規律正しい幾何学的な地獄というのはすでに人口に膾炙したイメージだったのだろう)。

・当時は資本主義の前。貨幣はあり、地中海貿易はあっても、大規模生産はできないし、金融もほとんど発達していない。そこにおいて地獄の懲罰に値する罪というのに、汚職・高利貸し・吝嗇と浪費・聖物売買・錬金術・贋金つくりがあげられる。教会・聖職者・王や豪族などの富を持つものの行動に対して批判されるのであった(ダンテ以前に行われたフランチェスコやドミニコの教会内改革運動も、教会と聖職者に清貧を求めるのであった)。

中世の錬金術
アンドルー・トマス「太古史の謎」(角川文庫)

 

ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫
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2022/07/26 ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-2「浄罪篇」 1300年
2022/07/25 ダンテ/野上泰一「神曲物語」(現代教養文庫)-3「天堂篇」 1300年

 

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