odd_hatchの読書ノート

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結城昌治「ゴメスの名はゴメス」(光文社文庫)

 「失踪した前任者・香取の行方を捜すために、内戦下のサイゴンに赴任した坂本の周囲に起きる不可解な事件。自分を尾行していた男が「ゴメスの名は・・・」という言葉を残して殺されたとき、坂本は、熾烈なスパイ戦の火中に投げ出された。香取の安否は? そしてゴメスの正体は? 「不安な時代」を象徴するものとして、スパイの孤独と裏切りを描いた迫真のサスペンス!」

 1962年の作品。まだ北爆もベトナム戦争もなかった。しかし、南ベトナム解放戦線の戦いやゲリラ活動が開始されていて、不穏な時期だった。そのような時代の出来事を描く。前半はヒッチコックの「知りすぎた男」のような巻き込まれ型サスペンス。自分の腕の中で死んだ男の残した一言が、そのあとの行動を決めるなんていうのはまさにそう。
 日本のスパイ小説の傑作。ということになっているが、あまり楽しめなかった。作者は主人公・香取の心情でもって孤独とか不安を描きたかったらしいが、自分にはそのあたりが見えてこなかったので。むしろ、そのようなマイナス感情を括弧にいれて、問題解決にまい進する「強い男」になっていて、そのような人物のセンチメンタルは読者の琴線には触れてこないのだなあ。という、勝手な感想を持った。もちろん戦前の小栗虫太郎「人外魔境」のスーパー・スパイのような大冒険活劇ではないので、こういう人物造詣になるのだろうが、孤独を読むには坂本でも強すぎる男と思えるのだよ。あと、香取の奥さんと不倫をしているなんてのが余計な感じ。
 グレアム・グリーンくらいに書けないとだめ、というのは贅沢すぎるかな。
 ベトナムが舞台、ということになると、これから数年のちにドキュメンタリーが大量に書かれている。戦争下の緊張した状況を描写したとなると、フィクションよりもノンフィクションのほうがおもしろかった。そんなことを思い出した。本田勝一「戦場の村」、開高健ベトナム戦記」、古森義久ベトナム報道1300日」、岡村昭彦「南ヴェトナム戦争従軍記」、近藤紘一「サイゴンの一番長い日」、「NAM 狂気の戦争の真実」など。
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