2013/09/23 笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-1
2013/09/24 笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-2
2013/09/25 笠井潔「群衆の悪魔」(講談社)-3 の続き。
オーギュスト・デュパンはこの事件の全体を「群衆の悪魔」の仕業、、というのだが、その議論はよくつかめなかった。「群衆」という新たな集団のありかたは、貴族・資本家・農民という階級でもないし、党派のような主張を持つものでもないし、地縁や血縁の関係が明示できる共同体でもない。そういう否定系で語るしかない集団は、パサージュや遊技場で見ることはできるがカテゴライズできず、その斬新さを明らかにできない。ただ、犯罪という特異な現象においてその本質を示すことができるのかもしれない。同じことをデュパンだけでなく、事件の「犯人」も認識していて、群衆に隠れることによって、群衆を支配できる新たな権力を創出できると考えている。その一連の活動が今回の事件だ。こんなまとめかな。自分にはよくわからないので、この議論はここまで。
(追記 マルクスとその関連本を読むと、「階級」は経済的な共同性をもつ固定的なもののように思える。でも、「ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日」を読むと、階級の説明はそう単純なものではない。むしろ、他の階級との差異でいかようにでもカテゴライズできる示威的で抽象的な集団と見たほうがよいかもしれない。ここらの議論は柄谷行人「マルクス その可能性の中心」に詳しい。そうすると、笠井の「群衆」とマルクスの「階級」には概念的な違いはないのではないかと妄想してしまう。)
注目するのは、シャルルとデュパンの二人が、矢吹駆や九鬼鴻三郎の隣人(まあ時代をみると先祖になるか)であること。シャルルはアシッシュ(阿片ですな)と酒に耽溺する。それはこの種の薬物の酩酊体験が重力に縛り付けられた存在の桎梏を破るものであり、黒人女に鞭打つ差別と加虐が性的法悦のきっかけになり、蜂起の喚呼と銃弾の殺戮が一瞬で永遠の存在の炎をあげるという。そして詩人は日常の体験では得られない存在の解き放ちを、言葉に定着する。それは日常に切れ目を入れ人びとを次の蜂起に参加する契機をあたえるだろうという。ここら辺の議論は何度も矢吹駆のシリーズでみてきたこと。
デュパンを通して語られるのは党派性の批判、社会主義批判かな。こちらもおなじみ。この方面でまとめるのはやめておくとして(メモを取らなかったので)、いくつか印象的だったのは、マルクス(本人がとてもいやなやつとして登場)が革命の主体は工場の非熟練労働者。これが組織化されたときに革命の主体が生まれるとする。その視点では当時のフランスは産業革命と工場化が十分に進んでいないので、2月の蜂起は革命ではありえないとする。これは「群集」を対置することで一蹴。このあとのマルクス主義者は革命の主体論争で長々と議論をしていたものなあ。また、プルードンのアソシエーショナリズムを取り上げる。これは、アソシエーションが「労働者の自主的な産業組織は普遍的たりえない。プルードンはまだ、古めかしい相互扶助組織のイメージから、免れえていない。企業とは、裸の個人を生産の効率性に即して結合する産業機械です(P519)」となる。ブランキは
「武装した少数精鋭の秘密結社による権力の奪取と人民武装による独裁の必要を主張した」
ルイ・オーギュスト・ブランキ - Wikipedia
とのことだが、ここでは革命の主体が生まれる場を生産ではなく、消費から見直すことを提案する。「パリ民衆は内的な結合形態を欠いた、純粋群衆に一歩、接近したともいえる。しかし、彼らにはまだ、職場や地域に根をおろした、大革命の時代に由来する古い民衆的な関係が残されてもいる。それが破壊される時です、政治的な純粋群衆が析出されるのは」(P518)ただ純粋群集の政治形態は現れていない。「純粋群集は、高度に結合された将来の生産者の関係においてよりも、現にパサージュに溢れている、商品や娯楽を求める無言の群衆のなかに、たぶん潜在している」(P519)
ここらのブランキとデュパンの会話は、将来書かれるだろうニコライ・イリイチと矢吹駆の対話の前駆になるだろう。そのとき、矢吹はアナルコ・キャピタリズムでレーニン主義を粉砕するのかしら。ま、俺には彼らの云う「群集」はデモの現場に現れる「野次馬」でもあって、群集の特徴である無個性・無内容に合わせて無責任でもあるので、はてさて「社会の革命」になりうるのかはよくわからないけど。
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