odd_hatchの読書ノート

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荒俣宏「広告図像の伝説」(平凡社)

 産業考古学シリーズともいうべき一冊。1987年に雑誌連載されて、1989年に単行本化。
 ここでは、図案、商標に注目。すなわち、製造業と販売業の境がなく、消費者は「もの」を購入していた時代。企業は商品のイメージを的確に消費者に伝えるためにどのような工夫をしたのか。商品の優秀さを文章でるる綴ったとしても、それを読む人は少なく、とりわけ嗜好品や消耗品で文章による宣伝ではまどろっこしく、新たな消費者として子供をターゲットにするときますます伝わらない。そこで使ったのが図案に商標となる。

 取り上げたのは、明治から昭和の初めにかけての新製品で、雑誌連載当時の若者がよく知っている商品群。由来、例歴、使用方法などの説明が不要で、図案・商標を提示したら、すぐさま考察に入っていけるという効率性の高い内容。
三越のライオン
・森永のエンゼルマーク
・カルピスの「クロンボ」マーク
・仁丹の将軍マーク
花王のお月様マーク
・グリコのスポーツマンマーク
福助、大黒、ビリケンなどの福の神
キリンビール
 この中のいくつかはなくなってしまった。あと、不二家のペコちゃん、ポコちゃんはそれぞれ「ベコ(東北地方の牛の愛称)」「ボコ(子供の古い呼び名)」に由来することは、この本を読まないと知らなかったでしょう。
 それぞれの図案に込められた象徴イメージ、伝説・神話などとの関係、起業家たちの思惑などについては本文を読むべし。よくもまあ、そんなことを知っているものだ、そんな関係や説明を思いつくものだという著者への驚きもさることながら、明治から昭和にかけてのこの国の起業家たちの機智や思い込み、不思議なイメージにも注目しよう。なるほど資本の少ない企業で新商品を発売することは賭けであり、命がけの飛躍であり、となると神仏に祈念することはごく自然な態度だったのだ。そこから図案や商標に彼ら起業家の意地とか熱意も読み取れるのだね。
 あとは、この本がバブル経済の最中に書かれたことに注目。このあたりから企業は商品・ものを売ることから、サービスを提供することに変わっていく。となると、もの=商品に紐づいた商標は企業価値と関係なくなり、ブランドやロゴマークのような象徴機能をもたない記号が使われるようになった。それは、この国で行われた製造がよりコストを下げるために海外に移転した時期と一致する。