odd_hatchの読書ノート

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岡嶋二人「そして扉が閉ざされた」(講談社文庫)

 4人が目覚めたとき、閉ざされた部屋にいた。この半年ほど疎遠になっていた4人は、トイレの壁に貼られた事故写真と「お前らが殺した」という赤い文字に戦慄する。閉じ込められたのは地下の核シェルター(市販の核シェルターがブームになったのは1950年代と1980年代のそれぞれ前半。核戦争が現実味を帯びたのがその背景にあるが、戦争勃発したらどうやって退避するの?数か月生きながらえたとしてそれで?に答えられずにすたれた)。照明がつき下水道があり段ボール箱2箱分のカロリーメイト(1983年発売開始なので、初出の1987年にはよく知られている)がある。時計、財布など身の回りの品はなく、シェルター内のわずかな取り外し可能な備品で脱出しなければならない。というわけで表層のストーリーは迷宮からの脱出ゲーム。このメンバーの心理の移り変わりがプロジェクトマネジメントの典型。すなわち、うわべの協力―失敗―責任の押し付け合い―反目―議論―協調―メンバーシップの確立。PINBOKを勉強しているものはこの本で知識を再チェックしよう(なんちゃって)。
 彼らが集められたのは半年前の夏休みの4日間に理由がある。この4人(男性二人に女性二人)にもう一人の女性を加えた5人で、ダブルデートの合宿。女王様気取りの咲子に愛想を尽かした雄一が、別の女性鮎美に色目を使う。最後の夜に、咲子と雄一が大ゲンカ。それが全員に波及して、気まずくなる。雄一がでていき、しばらくたって咲子がアルファロメオに乗ってでていった。崖の上でアルファロメオが見つかったが咲子がいない。翌朝、アルファロメオは転落し、2か月後咲子の死体が見つかり事故死とされた。しかし、咲子の母は殺人と考え、4人を集めて、シェルターに閉じ込めたと見える。
 昔からある「吹雪の山荘」「嵐の孤島」テーマに脱出ゲームを加えたのが慧眼(1987年初出)。探偵小説の現在の物語が尋問と推理で退屈になりがちなのに、もうひとつテーマを加えてストーリーを推進することができる。それに「なぜ集められたか」「集めたものの意図は何か」という謎もあって、これもストーリーを広げることになる。そこに謎の殺人者の暗躍などもあれば、幽霊屋敷や洞穴からの脱出という冒険小説にもなるしね。21世紀になって山ほど脱出テーマのエンターテイメントが作られている。
 過去の事件は、関係者が少ないのに証言が矛盾するというのがポイント。人間関係の複雑さ(二つの三角関係があって、さらにみそっかすがかき回す)のために、深夜の行動がわからなくなった。そのうえ、みんな若いものだから(当時フリーターと呼ばれた無職のギタリストに、学生4人)、自分勝手な行動をとって、バイアスの強い行動をとっていた。それが事件の構図を複雑にする(解決を読んだ後に思い返せば、ノックス「サイロの死体」みたいな趣向でした)。日常では彼らは事件や本心を語ることはないが、シェルターに閉じ込められるという極限状況において改心したり自己に目覚めたりするわけだ。ここらはグループセラピーといえるかも。
 ストーリーとプロットのひねりの効いた佳品(ただし拙い文章はよろしくない)。小説の中で「犯人」を当てることは可能だが、すれっからしの自分は読みの途中でわかってしまった。過去の事件を回想させるのではなく、全部おしゃべりで記述するという方法をとり、誰の内面も書かずに三人称の記述を通し切ればこれは傑作になったのではないかと残念に思う(D・M・ディヴァイン「悪魔はすぐそこに」にも同じ感想を持った。そこらへんはヘレン・マクロイやニコラス・ブレイクがうまい)。
(まあ、細かいことを言うと、4人を閉じ込める作業は初老の女性一人では無理で共犯がいるからそこから拉致監禁が発覚するだろうとか、正義を発動しないで他人のために偽証する動機はそこまで強いのか疑問だとか、瑕疵は目につく。)