odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

歴史・地理

今西錦司「世界の歴史01 人類の誕生」(河出文庫) マルクス主義と今西進化論で書かれた1960年代の人類の誕生物語は古すぎ。

1960年代に出版社は叢書や通史などの巨大な書物をつくることが多かった。その象徴が平凡社の百科事典で、販売の成功(百科事典のセールスマンが団地に営業をかけるというくらい。イギリスの成功例を導入したもの。この国では1980年代頭まであった)にあった…

羽仁五郎「都市の論理」(勁草書房)

これも20数年前(2005年当時)に購入し、読みかけて、理解できなくて放置しておいたもの。久方ぶりに取り出して読み出すと、きわめてすらすらと読み進めていけた。西洋の中世から近現代の歴史を少しは学んできたのが理由と思う。 もとは1967年の自主講座(懐…

弓削達「世界の歴史05 ローマ帝国とキリスト教」(河出文庫) イエスの時代をユダヤの側だけから見るだけではなく、ローマの側からもみる

イエスの時代をユダヤの側だけから見るだけではなく、ローマの側からもみるためにこの本を読む。どうやら河出の「世界の歴史」シリーズは歴史学で認められる事実だけではなく、当時の人々が事実と考えていたことも歴史に書いてよいというスタンスらしい。福…

クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)-3 19世紀のネーションとステートの誕生。経済のグローバル化はヨーロッパ域外の国民国家を生み、ヨーロッパとの確執になる。

続いて、フランス革命以後の国民国家(ネーション―ステート)の概説。 ・ネーション(国民)は6個の要因が作用して生まれた結果であるとする。 1)住民および外国人の眼に国を体現していると見え、聖化されて忠誠な執着の対象になり、共同体のアイデンティ…

クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)-2 ローマ帝国のあとヨーロッパには強力な帝国や中央集権国家が生まれなかった。ラテン語が文化的統合の共通ツール。

副題は「分裂と統合の1500年」。「ヨーロッパ」という場所は、ローマ帝国以降に生まれたという考え。 ヨーロッパというくくりで1500年の歴史を見るのが斬新なみかた。ヨーロッパをイギリスからポーランドまで、北欧三国からイタリア、スペインまでとみて、そ…

クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)-1 ヨーロッパはどこまでの範囲か。自由に交通できた時期と、民族あるいは国家によって分断された時期を交互に繰り返す。

西洋由来の科学を大学で勉強したり、西洋クラシック音楽を聴いたり、多くの小説を読んでいたりすると、必然的に(自分にとってはという限定付きで)「ヨーロッパ」という場所に興味を持つことになる。とはいうものの、多くの場合はそこに住む人々の集合の差…

宮田光雄「アウシュビッツで考えたこと」(みすず書房) 東欧革命・ソ連崩壊より前、全体主義国家でのキリスト教会をレポート。

著者はドイツ政治思想史を専攻するが、一方でキリスト者としての活動も行っている。自分には岩波新書ででた「キリスト教と笑い」が、映画や翻訳のでたエーコ「薔薇の名前」の主題と共鳴していて楽しく(?)読んだ。福音書に書かれたイエスの言行から笑いを見…

上山安敏「世紀末ドイツの若者」(講談社学術文庫) ドイツの学生は下宿住まいで学生組合に参加する。民族主義的な学生運動が生まれ、全体主義運動に取り込まれる

1890年から1920年までのドイツの学生はどのような生活をしていたのかを俯瞰する資料。内容に触れる前に前史を確認しておかないといけない。もともと「ドイツ」には放浪学生の習慣があった。ようするによい教師を求めて、自由に大学を移動する権利をもってい…

外川継男「ロシアとソ連邦」(講談社学術文庫) ヨーロッパの周辺にある強い民族主義と近代化に葛藤する巨大国家の歴史を概観するのに手ごろな一冊。

まあ以下のような妄想を書く人もいないだろうから、「トンデモ」認定を受けることを甘受して妄言を記しておこう。すなわち19世紀以降のロシアとこの国の歴史には類似と平衡関係が認められると。 ・19世紀前半において、両国は農業を主産業とする封建国家であ…

村上陽一郎「ペスト大流行」(岩波新書) 1337年からのパンデミック。人口の大減少は封建社会を終わらせ、民族・人種差別を助長した。

エーコ「薔薇の名前」の舞台は北イタリアの修道院。時は1327年。この数年後の1337年に中央アジアあたりから蔓延してきたペストが、南ヨーロッパ(ギリシャとかトルコあたり)に上陸した。約7年間、ヨーロッパ全域で猛威をふるった。当時のヨーロッパの人口は…

スウェン・ヘディン「さまよえる湖」(角川文庫) ロシア革命、中国の動乱で行くことができなかった時代のタクラマカン砂漠探検の記録。

砂漠という場所は、なぜかくもわれわれの心を震えださせるのだろうか。そこに住む苦労や苦痛に対して何らの想像力をはたかせることなく、砂漠という場所にあることを夢想し、そこに在ることにあこがれる。 現実の砂漠に住んではいないわれわれにとって、想像…

レオポルド・ランケ「世界史概観」(岩波文庫) 「歴史理念」を持たない歴史学の始まり。でも本書はバヴァリア国がコーマ帝国の正当な継承者であると力説。

レオポルド・ランケが1854年にバヴァリア国王マクシミリアン2世に行った歴史講義の記録。マクシミリアン2世は1856年に死去。その後を次いだのが狂王ルートヴィッヒ2世。講義の直前の1848年ドレスデン革命にはワーグナーが参加。というわけで、高校2年の…