odd_hatchの読書ノート

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外川継男「ロシアとソ連邦」(講談社学術文庫)

 まあ以下のような妄想を書く人もいないだろうから、「トンデモ」認定を受けることを甘受して妄言を記しておこう。すなわち19世紀以降のロシアとこの国の歴史には類似と平衡関係が認められると。
・19世紀前半において、両国は農業を主産業とする封建国家であった。いずれも商業資本はあったにしても弱小で、生産資本はほとんどなかった。そして、農業において生産性は停滞していて(当時の技術においてという制限つき)、農村には過剰な人口が生じつつあったが、それを吸収する産業はまだなかった。
・いずれの国も制度として限界にあった。同じころに、より生産性を高めた国民国家からの勧誘、というか侵略というか、投資というか、そういう外部からの接触がある。両国とも政府ないし権力機構はこのような外圧を受け入れて、外国資本の投資を受け工業化を開始する。それに対し、このような投資に対して利益とか権益を受けることのできない階級が反発する。ロシアでは下級貴族であり、この国では外様の下級藩士になる。彼らは、ネーションと外国の最新思想(ロシアではフランスの革命思想であり、この国ではフランスやアメリカの啓蒙思想国民国家思想)を旗頭にするナショナリズム運動を開始し、それは「革命」(まあ国家の主権の変更と統治体制の変革だ)を志向するようになる。
・この運動は、1860年代にロシアでは挫折し、この国では成功する。ロシアで成功するのは1920年代。
・それぞれの「革命」運動(個人的にはこの国の「維新」と呼ばれる運動は「革命」ではなく、「クーデター」だとおもう。この国では「維新」運動が国民の支持を得ていない、かつ国民の要求を反映・実現していないので)によって、国家社会主義の統治体制が実現する。この国では「開発独裁」のほうが実情にあうかもしれない。ポイントは(1)官僚による統治や立法、(2)国家資本による工業化、(3)民主化への弾圧、(4)警察監視と密告奨励の収容所体制、などなど。
国家社会主義ないし開発独裁の運命はほぼ70-80年。解体したのは、外部からの要請であったり、国民の要求であったりして、共通点はない。
・民主主義に移行する際に、混乱が生じる。マフィア支配の資本主義とか(この国でも昭和25年まではそういう傾向にあったと思う)、別の形態の国家社会主義を要求するテロの発生とか。
・だいたい二十年くらいすると民主化が定着して、社会民主主義の政治が始まり、経済発展が起こる。
 まあこんな感じ。革命ないしクーデターの起こる年が50年ずれて、大枠同じような動きがおきたとおもう。50年のずれはどこから起きたかというと、その時点の国家がどれくらい金をもっていたかによるのではないかしら。この国では欧米諸国の投資などなくて幕府も諸藩も金がなかった。一方、ロシアはフランスやドイツの投資を受けていて、少なくとも陸軍に関してはヨーロッパ屈指の規模を誇っていたから。妄想はここまで。

 さて、ロシア史を概観するには適切な一冊。もちろん1991年までしか記載されていないとか、文学など芸術・文化の記述が薄いなどねだりたいものはあるのだが、この価格でここまで情報を入れてくれれば十分。かつて書店で入手できるものだと、革命史のほうになってしまうから。河出文庫の世界史シリーズの「ロシア革命」だと、革命者の側の記述ばかりで、ツァーリたちの近代化政策がみえないし、岩波新書も革命史か(クリストファー・ヒル「レーニンとロシア革命」荒畑寒村「ロシア革命運動の曙」)、グラスノスチ政策のレポートだったし(下斗米伸夫「ゴルバチョフの時代」(岩波新書)とか小川和男「ソ連解体後」(岩波新書)とか三浦元博/山崎博康「東欧革命」(岩波新書)とか小川和男「東欧 再生への模索」(岩波新書)とか梶田孝道「統合と分裂のヨーロッパ」(岩波新書)。最近は知らない)。
 いくつかを覚書にしておくと
・17世紀後ごろにギリシャ正教宗教改革が進んだ。翻訳の誤りを直したり、さまざまな呼び名を統一したり。一方この改革に反対する一派もあった。彼らには分離派の名がつき、しばしば正教会と対立し、分離派に対する弾圧があった。しかし分離派は壊滅することがなく、国教会は皇帝など政治権力の助けがなければ成立できない状況になった。西洋諸国と異なり宗教権力は早い段階で世俗権力に屈服していたことになる。ちなみに、分離派はドスト氏が作品でしばしば描いている。またカソリックポーランドでは教会が反政府勢力の保護を行っていたが、ソヴェトでは革命権力の成立直後から正教会は迫害される。これは両国の政府と宗徒の力関係とその歴史の違いにあるのだろう。高橋保行「ギリシャ正教」(講談社学術文庫)によると、18世紀初頭のペートル大帝時代に西欧化政策として、カソリックの導入が図られ、ギリシャ正教への迫害があったとの由。国政のための宗教と民衆の生活の宗教にずれが出てきたのが、そこらへんの理由かしら。
・西洋諸国が君主制を廃止し順次共和制に移行するころに(19世紀前半)、ようやく立憲君主制(エカテリーナ2世からアレクサンドル1世にかけて)が確立。
・19世紀末にユダヤ人排斥(ポグロム)を起こす。その結果、国内ユダヤ人の70%が海外に脱出。同時にスラブ民族以外の少数民族迫害もあった。そのため、ロシア革命時には海外に脱出したユダヤ人が革命党派を支持し、少数民族から革命家(トロツキースターリンなど)を輩出することになった。
・19世紀末のアレクサンドル2世、3世がロシアの近代化を図る。現在でいえば「開発独裁」のようなやり方。国内に産業資本も技術もないので、海外資本と技術の輸入を図るしかない。そのために農民(全国民の80%以上)を収奪することになった(過酷な税金、移動の禁止など)。工業労働者が増加したが、労働環境は劣悪。同時期の西洋諸国は労働者保護の政策(労働時間の制限、週休制度、年齢制限など)を実施したが、ロシアでは法律はでたものの実効なし。そのため資本家や政府への労働者の不満が高まった。
ポーランドフィンランド、ルトアニアなどバルト諸国、ハンガリールーマニアなどはロシアの帝国の伸長に応じて、好き勝手に領土の分割、譲渡などが行われた。きちんとした国民国家は第1次大戦と第2次大戦の中間期と1989年以降に成立したと考えてよいかもしれない。ここらへんの国民感情は複雑で、やっかいで、極東の島国からはなかなか理解しづらいだろうな。(スメタナの「わが祖国」、シベリウスの「フィンランディア」のような民族のシンボルになる楽曲が作られ、愛唱されているところなどからも。)


<参考エントリー>
2011/09/19 荒畑寒村「ロシア革命運動の曙」(岩波新書)
2011/09/22 クリストファー・ヒル「レーニンとロシア革命」(岩波新書)
2014/11/25 松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河出文庫)
2014/11/26 レーニン「国家と革命」(国民文庫)
2014/11/27 ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 上」(岩波文庫)
2014/11/28 ジョン・リード「世界をゆるがした十日間 下」(岩波文庫)
2014/12/01 エドワード・H・カー「ロシア革命」(岩波現代選書)
2014/12/02 エドワード・H・カー「ロシア革命の考察」(みすず書房)
2014/12/03 レフ・トロツキー「裏切られた革命」(岩波文庫)-1
2014/12/04 レフ・トロツキー「裏切られた革命」(岩波文庫)-2
2014/12/08 和田春樹「歴史としての社会主義」(岩波新書)