odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

歴史・地理

河部利夫「世界の歴史18 東南アジア」(河出文庫) 海洋交易圏は長い中世を過ごし、西洋や日本の植民地にされて近代を経験しなかった。

東南アジアは近いのに、この国の人からは等閑視されている。観光やビジネスで行くことはあっても、文化を知るまでにはなかなかいかない。1941-45年のこの国による占領とその影響は忘れられつつある(なにしろ、日本の帝国主義的植民地化を「アジアの解放」と…

岩村忍 他「世界の歴史19 インドと中近東」(河出文庫) インドと中近東の政治的不安定は、宗教情熱の強さと、他民族との衝突に由来。

トルコ、イラン、インドの中世と近代史。もうしわけないが、この場所と時代に関する興味をもっていないので、どうにもつらい読書。なにしろ、それぞれの地域には巨大帝国があったとはいえ、宮廷内の内紛とクーデター、王朝の交代ばかり。個々の皇帝の個性や…

佐藤圭四朗「世界の歴史06 古代インド」(河出文庫) 西洋の「市民」感情や意識を成立させないカースト制度と他民族による度重なる侵略。

土地と歴史に勘が働かない上、現在のインドをよく知らないので、おざなりな感想になることを事前報告。 この文明の成立した一帯は海からも陸からも行くのが便利な交通の要地であった。農業生産よりも貿易の拠点として、人と物と富が集積した場所のよう。紀元…

前嶋信次「世界の歴史08 イスラム世界」(河出文庫) 15世紀までは世界の最先進地帯。西洋や中国の規範や常識がこの世界には通用しない。

2016/03/25 岸本通夫/伴康哉/富村伝「世界の歴史02 古代オリエント」(河出文庫) ここでは紀元3世紀から15世紀までのイスラム世界を描く。おおよそでいうと、ローマ帝国が弱体化し、インドのクシャーナ帝国の支配も弱まりササン朝ペルシャが成立して、オス…

ハインリヒ・シュリーマン「古代への情熱」(新潮文庫) 19世紀にバルト海貿易でビジネスマンが成功するまでは啓発的。しかし発掘作業は強奪的で批判されている。

ハインリヒ・シュリーマンは立身出世の人。高等教育を受けることができず、丁稚奉公から事業で成功し、幼少時代からの夢を実現した。その社会的成功、学問の達成、語学の天才、克己と自己実現は子供向けの伝奇としてよく読まれた。 この「古代への情熱」は高…

田中眞「世界史夜話」(文健書房) 昭和30年代の大学入試世界史は自己修養とトリビア暗記が必須

これはたぶん入手困難な一冊。1958年、昭和33年に出たのがその理由であるし、執筆者が高校教師で雑誌「高校時代」と「英語研究」に連載された文章をまとめたものだから。余談になるが、戦後に学研と旺文社がずっと受験雑誌を出していて、世の高校生は受験な…

桑原武夫「世界の歴史24 戦後の世界」(河出文庫) 冷戦下に書かれた同時代の問題点。執筆者の知恵は20年後くらいまでしか見えなかった。

前の巻の「第2次世界大戦」の記述は1953年の朝鮮戦争終結までを記載した(まえがきによる。自分は23巻は未読)。第2次世界大戦を1953年まで拡大する見方は刺激的で、事態をはっきりさせる区分だと思った。すなわちこの国では戦中と戦後を昭和20年1945年8月…

中山治一「世界の歴史21 帝国主義の開幕」(河出文庫)-2 イギリス-フランス-ロシアvsドイツのブロック経済圏の均衡が破れ、政治と外交では戦争は終結しなくなる。

2018/03/08 中山治一「世界の歴史21 帝国主義の開幕」(河出文庫)-1 安定と均衡の19世紀末。その均衡を破るのは、ふたつの周縁。ひとつはヨーロッパという地域の周縁で外部とつながっているところ。すなわちバルカン半島。強大国トルコの衰勢で、この地域の…

中山治一「世界の歴史21 帝国主義の開幕」(河出文庫)-1 イギリス、フランス、ドイツ、ロシア4か国が相手を変えてのパワーゲーム。日本は戦争によって世界史に登場。

岩間徹「世界の歴史16 ヨーロッパの栄光」(河出文庫)に続く「長すぎる19世紀」の後半。1870年ころから1921年のワシントン会議まで。19世紀が終わるにあたり、ロシア革命という重要なイベントがあったが、それは松田道雄「世界の歴史22 ロシアの革命」(河…

岩間徹「世界の歴史16 ヨーロッパの栄光」(河出文庫) 長い19世紀に西洋の国民国家は帝国主義国家に変貌する。

フランス革命で開幕した長いヨーロッパの19世紀をこの本でさらに圧縮しすると、18世紀までの絶対王政がブルジョア・市民などの新しい階層の人々によって民族主義と自由主義の国家に変化していく過程であるといえる。ナポレオンのあと王政、帝政へのバックラ…

河野健二「世界の歴史15 フランス革命」(河出文庫)-2 近代のナショナリズムはここに始まる。国家の求心力を求める運動はマイノリティ差別を必然とする。

2018/03/02 河野健二「世界の歴史15 フランス革命」(河出文庫)-1 (以下は若書き。かっこ内が再読時の補足) まとめでパトリオティズムとナショナリズムの違いを説明している。前者は郷土や地縁などに根ざした感情に由来するもので、後者は国家(国民=ネ…

河野健二「世界の歴史15 フランス革命」(河出文庫)-1 グローバル化する資本主義に対応できない封建国家体制は人民の蜂起や革命で打倒される。

本書のテーマはタイトル通りであって、1789年から1815年までを扱う。この前の今井宏「世界の歴史13 絶対君主の時代」(河出文庫)が1700年ころで記述を終えているので、約90年の間にヨーロッパで何が起きたかはこの叢書でははっきりしない。 わずかながら記…

今井宏「世界の歴史13 絶対君主の時代」(河出文庫) 地中海貿易から締め出された西ヨーロッパはグローバル化を進め世界システム構築に乗り出す。

だいたい1550年から1750年までのヨーロッパを扱う。自分はクラシックオタクなので、この時代はバロック音楽であるからとても興味があるのに、読書はぜんぜんスイングしない。政治史に集中して、王様と反逆者の名前がでてくることと、各国史になってこの時代…

今津晃「世界の歴史17 アメリカ大陸の明暗」(河出文庫) 西欧が植民地経営にこだわったカリブ海周辺と南アメリカは停滞し、手を引いた北アメリカは奴隷制があったために発展した

中南米文学を読んでいながら、ラテンアメリカの歴史を知らないのに気付いて、手軽な通史を読むことにする。 アメリカの歴史は15世紀の西洋による「発見」以降として書かれないのは不幸で、不当なこと。マヤ文明やインカ帝国の長い豊かな歴史があるはずなのに…

宮島喬「ヨーロッパ市民の誕生」(岩波新書) 差別撤廃からシティズンシップ(市民権)の実現へ。国民国家から分権化、文化的多元化、超国家コミュニティの創出へ。

クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)の記述は1970年代で終了。本書(2004年初出)の主題は、前掲書の記述が終わった後のヨーロッパを、とくにシティズンシップからみようというもの。 シティズンシップの考えの背景にはロック「…

浅井香織「音楽の〈現代〉が始まったとき」(中公新書) 1848~1871年の第二帝政時代フランスの音楽事情。王宮、貴族の占有・ブルジョアの簒奪から大衆と労働者の消費へ。

フランスの音楽史を作曲や作品からみると、19世紀は妙に空白なのだ。18世紀には、ジル、カンプラから始まってラモー、リュリ、クープランなどの名が綺羅星のように現れるのに、19世紀ではベルリオーズとショパンを除くといきなり、サン=サーンス、フランク、…

小宮正安「ヨハン・シュトラウス」(中公新書) ハプスブルク帝国はワルツの人気上昇とともに隆盛し、ワルツが飽きられると没落する。

タイトルこそヨハン・シュトラウス(息子)個人であるが、主人公はハプスブルク帝国そのもの。なるほどこの帝国の栄光と没落はこのワルツ音楽の大家に具現しているわけか。 この本の記述にそうと、19世紀のハプスブルク帝国の歴史はこんな感じになる。前の世…

会田雄次「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-2 聖俗革命により西欧域内で異端審問で虐殺し、植民地先で虐殺と収奪を行う。不寛容の時代。

2016/04/11 会田雄二「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-1 の続き。 今度はルネサンスのネガティブな面。 ・アヴィニョンの捕囚のあと、法王権は再び強くなる。地方教会ができて、農民他の平信徒を教会に組織化する。目覚めてから寝るまで、生まれて…

会田雄二「世界の歴史12 ルネサンス」(河出文庫)-1 ルネサンスは地域によって時代が異なる。イタリアとビザンツが地中海貿易を独占していたので、西欧は大航海に乗り出した。

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)に続けて「世界の歴史12 ルネサンス」。ここでは1300年から1600年までのヨーロッパを扱う。われわれは世界史の教科書で「暗黒の中世」から「ヒューマニズムのルネサンス」に転換したと習った。 前掲書を…

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-4 宗教的熱情の果てに起きた数次の十字軍。内部に向けられた異端排斥(魔女狩り、異端審問を含む)と外国人排外(反ユダヤ主義)

2016/03/29 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1 2016/03/30 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-2 2016/03/31 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-3 の続き。 キリスト教は3世紀ごろにローマ帝国の…

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-3 中世都市。王権や教権から独立して誕生したので、自治と民主主義で運営されることが多かった。市民は多くの場合、城壁の中に住むものをいう。

2016/03/29 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1 2016/03/30 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-2 の続き。 中世後期になると、都市ができる。この成立過程も重要。都市もいくつかの類型に分かれる。 その前に商人に…

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-2 他の文明から遅れること数百年後の9-10世紀に農業革命が起きてから大きな集団を作れるようになる。

2016/03/29 鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1 の続き。 そういう「発展途上国」だったヨーロッパが変わるのは、9-10世紀に農業革命が起きてから。鉄製農具が使われ(中国に2-3000年遅れ、この国とは数百年遅れ)、家畜にひかせて深耕…

鯖田豊之「世界の歴史09 ヨーロッパ中世」(河出文庫)-1 西ローマ帝国が解体し地中海貿易が止まるとヨーロッパの生産性は低下し、深い森のために人口は増えず移動もできない。

クラシック音楽と科学史の興味からヨーロッパ中世は気になっていた。とはいえ、読書は散発的だったので、しっかりした通史を読むことにする。著者はこの国の1950-60年代の西洋中世史の泰斗。高校の世界史の教師に著者の本を読めといわれたのに、そのときは重…

村田数之亮/衣笠茂「世界の歴史04 ギリシア」(河出文庫) ギリシャは帝国と帝国の<間>を取り持つことによって独立と自治が成立し、都市国家間の牽制と同盟が民主制が維持できた。

ギリシャが世界史に登場するのは、紀元前3000年ころから紀元前200年くらいまで。最初の1000年くらいは記録が少ないので、わからないことだらけ。最盛期は紀元前4-500年ころで、ギリシャ悲劇の黄金時代。ソクラテス、プラトンにアリストテレスの哲学の巨匠は…

岸本通夫/伴康哉/富村伝「世界の歴史02 古代オリエント」(河出文庫) 家族や部族の共同体が順次成長発展したのではなく、国家はいきなり完成形として生まれたらしい。なんという神秘(ミステリー)。

中学や高校の歴史の授業がつまらなかったせいか、古代史には興味を持たなかった。成人後は、せいぜいウィルヘルム・フルトヴェングラーの祖父やアガサ・クリスティの夫が考古学者であるとか、旧約聖書の時代が重なるとかそれくらい。知識として、ナポレオン…

ジャレド・ダイヤモンド「鉄・病原菌・銃 下」(草思社文庫)-2 第4部は応用編。集団と集団の出会いと変化をさまざまな地域でみる。

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫) 2016/03/18 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2 2016/03/21 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-3 2016/03/22 ジャレド・ダイア…

ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 下」(草思社文庫)-1 社会システムや病原菌に対する免疫、技術などの差異がどこから現れたかを検討する。第3部ではヒトの集団に起きたことに関して。

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫) 2016/03/18 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2 2016/03/21 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-3 の続き。 第3部ではヒトの集団…

ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-3 社会システムや病原菌に対する免疫、技術などの差異がどこから現れたかを検討する。第2部では、環境と生態に関して。

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫) 2016/03/18 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2 の続き。 社会システムや病原菌に対する免疫、技術などの差異がどこから現れたかを検討する。第2部では、…

ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-2 ある集団がほかの地域を圧倒し征服できる要因は「鉄・病原菌・銃」。でもそれだけではない。

2016/03/17 ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫) の続き。 著者による歴史の形式化によると、ある集団がほかの地域を圧倒し征服できる要因は「鉄・病原菌・銃」のみにあるのではない。さまざまな要因の因果連鎖で、上巻153ページの図…

ジャレド・ダイアモンド「鉄・病原菌・銃 上」(草思社文庫)-1 科学的な知見から西洋由来のシステムや技術や知識はほかの地域にあまねく広まったのだが、なぜ逆ではなかったのかと問う。

科学史を少し読むと、近代の科学技術は西洋でたまたまうまれたものという説明がよく出てくる。14-15世紀の天文学の革命から科学は始まったのだが、革命の前提にはアラビアの知識や道具の伝来などがあり、なるほどあの時期のあの時代に誕生したのは偶然である…