自分の読書の記録だと2010年に最初に読んだことになっているけど、本当は1985年にたぶん日本橋・丸善で買って即日で読んだのだよ(あれ、府中市の駅前書店かな、どっちでもいいや)。
1970年後半にロンドンに渡った20代半ばの女性二人が、とある書店でふと出会う。二人で四方田犬彦の送ったカラオケテープだかレコードだかを使って、場末のライブハウスでパフォーマンスをしたら、馬鹿受け。あちらで作ったレコードが輸入され、邦盤が販売された。そのうえ、来日公演も決まり、きっかけを作った四方田と評価した平岡正明がそれぞれ口述した文章をまとめて急遽出版したのがこれというわけ。カズミとカズコという二人組みがカラオケが無かった(当時)ロンドンで、演歌やら童謡やらアニメ・特撮ソングを歌う。われわれのイギリスに対するイメージもホームズとかパイソンとかの特殊なゆがみを持っているわけだが、かれらのイメージする「日本」もまた珍妙である。たいていわれわれは彼らの誤解を解くというようにこの国の有様を紹介、説明するのだが、フランクチキンズの面白さは彼らの誤解に積極的にのる、ないしエキゾチック・ジャパンとか植民地・アジアのイメージを強化するようにパフォーマンスするらしい。忍者の格好、割烹着、法被、その他各種の「民族衣装」をまとい、茶漉しで作ったモスラの目玉を装着するのだからね。まあ、「国辱」イメージを積極的に誇張して、文化を相対化するわけだ。
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FRANK CHICKENS We Are Ninja
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FRANK CHICKENS Blue Canary (1984)
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Frank Chickens - Fujiyama Mama 7'' (Wanda Jackson Cover)
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Frank Chickens Shellfish Bamboo
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などと、著者らの文章から教わったことを書くのはやめよう。とりあえず面白かったのは、「外国」を見るとき、まあたいていは会社員、学者、研究者、大使館員などの中産階級としていくことになるのだ(堀田善衛「19階日本横町」とか深田祐介とかかな)。彼女らは、資産なしビザなし、場合によっては強制送還もありうるという底辺階級としていっている(小田実とか金子光晴だな)。1970年代後半のイギリスは労働党の社会民主主義がうまくいかなくて、失業と貧困、非生産性、不効率が蔓延していたときだ。借り手のいないアパートを勝手に占拠して住むとか、イスラムからの移民が大量に増えていたりしていたとき。こういうところで、東京大学出身でもある彼女ら(きちんとした英語はしゃべれるし、ルーセルみたいな特殊な文学者(といって自分は知らない)をフーコーを絡めて話せるというインテリ)が、直訳英語にカラオケでもって下手な歌をうたうというのが面白い。
で、その後はよくわからない。アマゾンのサイトでは1990年のCDが在庫にあるみたいなので、そのころまでは活動していたのだろう。ネットのなかった世界なので、アニメにしろ特撮映画にしろ、ロンドンに伝わるまでタイムラグがあり、必ずしもオリジナルをそのまま見られるわけでもない。フランクチキンズのいたのはこの情報の遅延の隙間なのではないかしら。この国で放映されたアニメが即日にyoutubeにアップされるというスピード感では、フランクチキンズの居場所はありそうだけど狭そうだな。
さて、四方田のあれこれ話に池袋のWAVEとアール・ヴィヴァンがでてくる。WAVEというCDショップがつぶれたのはいつだったか。この本が出てから(1985年)しばらくの間はWAVEとアール・ヴィヴァンは興味深い場所で、現代詩と写真集とモダンアートと現代音楽なんだの最新情報はここに集約されていたかんじ。一時期は「WAVE」という雑誌も出していた。池袋西武本体から離れたところなので、行きなれない人には見つけにくい場所だった。それでもたくさん人がいたな。トッド・マコーヴァー「VALIS」とジョン・ケージの弦楽四重奏全集を買ったのはここだった。と思う。六本木WAVEだったかもしれないけど。
(アマゾンにも楽天にもこの本の出品はなしでした)