1980年代(83-86年)に雑誌「海」やシネ・ヴィアンのパンフレットに載せた二人の対談。何しろ年間150-300本の映画を見ることを数十年続けた二人なので、傾聴するばかり。
映像と音の誘惑 ・・・ 映画に関係する人が映画をみない、映画人が昔の映画(とその関係者)を知らない、音の使い方が下手になった(たしかに2000年以後のハリウッド映画はずっとオーケストラの伴奏が聞こえていてうるさい)、色の使い方が下手(青が強いとか、黒を出せないとか、闇をつくれないとか)、映画ではそれらにくわえて運動や細部が重要、など。そこに大量の薀蓄が語られる。うれしいのはヒッチコックや007などをちゃんと見ていることと、淀川長治を評価していることかな(当時は小松政夫がものまねをするくらいに知られているが、評価の低かった人。「このひとはすごい!」に変わったのは「映画千夜一夜」のでた1980年後半になってから)。笑ったのは、映画好きが会うと、「この人は敵か味方か確認しあう儀式がある」という指摘。
ジャン・リュック・ゴダール「パッション」 ・・・ ゴダールの地方性、音の使い方、中心を持たない構図、ポーランドの俳優(ワイダ「大理石の男」主演)を使っている、シークエンスと音の二重フーガの構成、あたりに注目。自分は80年代のゴダールは「探偵」「マリア」のみ既聴。「パッション」はみていない。どうやらよい映画らしい。
ゴッドフリー・レジオ「コヤニスカッティ」 ・・・ 深夜映画を録画したのをみたけど退屈だった。二人とも同じことを言っていて、配給のコッポラとあわせて「高校野球的きまじめ」と一蹴。さて、似たような趣向のリュック・ベッソン「アトランティス」はどういう評価になったかな。
ニキータ・ミハルコフ「ヴァーリャ!」 ・・・ ゴルバチョフが大統領になってソ連は変わりだした、ということを最初に気づかされたのは映画ではなかったかな。1980年代初頭にこの国でタルコフスキーとこのミハルロフがすごい、という記事が出るようになった。ミハルコフはたぶん「黒い瞳」を見たことがあるはず。しかし、この「ヴァーリャ!」を二人はけちょんけちょん。
アンドレイ・タルコフスキー「ノスタルジア」 ・・・ 音がよい、映像がよい、映画でしかできないストーリーを語ることに成功、映画が楽しいものとしては作れないことを自覚してつくり成功している映画。絶賛ですね(とはいえ別の席では蓮實重彦はタルコフスキーを酷評)。タルコフスキーはいくつかみた。この映画では空の青とか枯れた草原とか湿度と温度の低い空気とか、そんなことに印象が残っている。
ジャン・リュック・ゴダール「カルメンという名の女」 ・・・ 1980年代に小さい「カルメン」ブームがあって、これにカルロス・サウラにフランチェスコ・ロージが映画を作り(ゴダール以外は見た。うーん、どっちもそれほどおもしろい映画ではない)、ピーター・ブルックが舞台にした(TVで見た記憶がある)。ゴダールは高貴で繊細で典雅であるとのこと。あと武満の発言で「映画はいろんなことを取り込めて、透明になっていく。音楽は捨てていく。」というのが気になった。
エットーレ・スコラ「特別な一日」 ・・・ イタリアの映画監督。まるで知りませんでした。マストロヤンニとソフィア・ローレンの出てくるメロドラマで、背景にはファシズム台頭が描かれるという。小品として愛すべき映画、とのこと。自分は、イタリアの映画は大監督の数作品しか知らないというていたらく。
ダニエル・シュミット「ラ・パロマ」 ・・・ 誰が見ても楽しい、映画的な素養を持っている人はもっと楽しい、というのだけど、ビデオでみたときはさほど感心しなかった(「ぼかあ、ダメだな」by田之上太郎@ああ、爆弾)。でも、山上のデュエットは覚えている(あたりまえ)。体質的なものにねざした不思議な空間、不思議な時間を持った映画、とのこと。
ビクトル・エリセ「ミツバチのささやき」 ・・・ 西部劇的空間、慎ましさと新しさ、100分で複数の物語をまとめあげる手腕、なんといっても二人の少女。自分も好きな映画。でももっているDVDは1999年ごろの発色の最悪なやつなんだ(泣)。BS放送を録画したのでそちらに差し替え。でもあまり発色はよくないなあ。
ビクトル・エリセ「エル・スール」 ・・・ 耳を澄ます映画、地平線の見える広大な閉鎖空間の映画(すなわち西部劇の砦)、したたかな監督の映画、40-50年代のハリウッド映画を若いときに見てきた人たちが監督になってから作った映画。自分のもっているD(略 こちらはいまだにBS放送にめぐりあえず。
映画・夢十夜 ・・・ 夢の映画プログラム二本立てシリーズ。このうちおいらが見たことのあるのはいくらもねえや(@「日本の夜と霧」)。
1)アメリカの逃亡映画: フリッツ・ラング「暗黒街の弾痕」/ニコラス・レイ「夜の人々」
2)対独反ナチ映画米ソ二本立て: フリッツ・ラング「死刑執行人もまた死す」/ボリス・バルネット「斥候の武勲」
3)やくざvsギャング: マキノ雅弘「昭和残侠伝 死んで貰います」/ジャック・ベッケル「肉体の冠」
4)こども: チャップリン「キッド」/ヴィム・ヴェンダース「都会のアリス」
5)テーマ不明: ハワード・ホークス「モンキー・ビジネス/小津安二郎「淑女と髭」
6)テーマ不明: ウィリアム・ワイラー「黄昏」/成瀬巳喜男「鶴八鶴次郎」
7)河と船: 「キートンの船長」/ジャン・ヴィゴ「アタラント号」
8)スポーツ選手: ウォルシュ「鉄腕ジム」/アルドリッチ「カリフォルニア・ドールズ」
9)トレンチコート・男と女: ハワード・ホークス「三つ数えろ」/ゴダール「メイド・イン・U.S.A」
10)木漏れ日: 成瀬巳喜男(1943年)なのか衣笠貞之助(1960年)なのか不明「歌行灯」/アンソニー・マン「最前線」
映画の本はいろいろあるけれど、対談が一番面白い。これもそうだし、淀川長治/蓮実重彦/山田宏一「映画千夜一夜」(中公文庫)だし、ヒッチコック/トリュフォー「映画術」(晶文社)だし。何かの主題について語っているようでどんどん脱線していくのが映画的だし、歴史を引用するのが映画的だし、細部や小物などのフェティシズムを楽しむのが映画的だし。というわけで、自分の書くようなモノローグ、それも自分に向けて語るような一人語りほど映画から遠いものはない、ということでおしまい。ともあれ、二人の無駄でありかつ貴重な知識に圧倒されながら、見ていない映画をみているようなつもりになって楽しくお話しを聞きました。二人に感謝。
大江健三郎/武満徹「オペラをつくる」(岩波新書)→ https://amzn.to/43gitO0
武満徹/小澤征爾「音楽」(新潮文庫)→ https://amzn.to/43jgf0q
武満徹/川田順造「音・ことば・人間」(岩波同時代ライブラリー)→ https://amzn.to/4ccaFRB
蓮實重彦/武満徹「シネマの快楽」(河出文庫)→ https://amzn.to/43gEcFv
小沼純一「武満徹 その音楽地図」(PHP新書)→ https://amzn.to/3Tk2nOG