感染症は感染源が人から人へと移り重篤な症状を起こすもの。とくに感染性が強く、症状が重いものは伝染病と呼ぶ。感染源はウィルス、病原菌、微生物、寄生虫など。人類はずっと感染症や伝染病の対策をしてきた。人間は生物学的にはあまり変わらないが、行動や生活様式を変えたので、病原体の伝播様式も変わった。新しい感染症の場合、治療法が確立するまでに時間がかかるので、病原菌が伝播しないようにすることが重要になってくる。ことに21世紀にはウィルス性の病原体に起因する伝染病がとても増えていて、世界中に蔓延しかねない/する事態が起きている。
病原体が人に伝播する経路はおもには口から。他には皮膚接触、埃付着、性行為など。19世紀の感染症対策はおもに公衆衛生の面から行われた。上下水道を整備することで糞便からでた病原体を劇的に減少させた。また消毒の効果もでた。当時が感染源の知識はなかったが、疫学や公衆衛生調査などで対策を立てた。(ちなみに19世紀の性道徳がとても厳しかったのは梅毒の感染を恐れたためだという。とくに女性に対して。あいにく禁欲を守れない男性の若者は娼館にいって感染することが多かったのだった。)
21世紀に現れる新型ウィルスでは飛沫(エアロゾル)で感染することが確認された(ちなみに国立感染研が2019年末から世界的に蔓延したCOVID-19のエアロゾル感染を認めたのが2022/3/29!?)。エアロゾル感染の対策はむずかしい。これは過去の感染対策ではなかなか効果が現れない。エアロゾルでは免疫力の弱い人が密集した密閉されやすい施設(とくに病院、老人養護施設、クルーズ船など)で集団感染することがある。また食中毒による集団感染が起きるのも最近の傾向。
感染症の対策には、ワクチン(野生株による追加免疫効果、ブースター効果が働く)、疫学調査、行動変容などがある。エアロゾルによる感染にはマスクをするのがよい(この提言はゼロ年代の新型インフルエンザが蔓延したときの知見に基づく。著者は1週間のマスク着用で防げるとみていたようだ)。対策を検討する際には、証拠がなくても講じる予防原則で臨むべきである。性感染症のエイズには、コンドームの使用が有効なので、性教育や啓蒙などを充実させるべき(という主張は与党や官僚の爺さんたちに不評。バイアグラの承認は早かったのに)。
新型ウィルスの出現と伝播経路はよくわからない。ゼロ年代では野生動物→家畜→人という仮説がでておおむね受け入れられている。野生動物が大洋を越えたり、人が飛行機で移動するので経路を追うのは難しいし、拡散しやすい条件になっている。
だいたいのまとめはこんな感じ。2006年にでて、2020年3月に新型コロナウィルスの世界的蔓延が懸念されたころに増補版がでた。当時は国内の感染者も少なかったので、中国の感染状況を遠くから観戦しているようなのんきさだった。それにウィルスの情報も少なく、治療法も見つかっていない。その後、パンデミックは世界中に広がり、数百万人の使者がでて、2021年からワクチン接種が始まり、さまざまな変異種がでるたびに感染の「波」が起きている。その間に、メディアやネットで本書に書かれるような情報がたくさん流れるようになったので、COVID-19の情報は古くなってしまった。あと数年すれば、今回のパンデミックの検証本が出るだろうから、それまでのつなぎとして読んでもいいかもしれない。19世紀の公衆衛生と疫学調査の情報は科学技術史としてみても面白かった。
フロレンス・ナイチンゲール「看護覚え書」(現代社)-1