2012年ころから牟野素人さんがエミール・ガボリオの翻訳を進めていて、AmazonKindleで読むことができる。
wikiによると、エミール・ガボリオの長編のうちルコック探偵ものは次の6編。
1.ルルージュ事件 L'Affaire Lerouge(1866年):ボードレールが仏訳したポーの推理小説の影響を受けた世界初の長編推理小説。この話では、ルコックは脇役に過ぎず、素人探偵の老人タバレが主人公である。明治21年・黒岩涙香翻案『人耶鬼耶』、昭和21年ほか・田中早苗訳『ルルージュ事件』。2008年、初めて日本語による全訳が国書刊行会から出版された(ISBN 4336047561)。
2.書類百十三 Le Dossier 113(1867年):明治23年・黒岩涙香翻案『大盗賊』、大正8年・泉清風訳『十文字の秘密 : 探偵大活劇』[1]、昭和4年・田中早苗訳『書類百十三』
2023/07/20 エミール・ガボリオ「ファイルナンバー113:ルコック氏の恋」(KINDLE)牟野素人訳-1 要塞のような大金庫からの大金盗難事件 1867年
2023/07/18 エミール・ガボリオ「ファイルナンバー113:ルコック氏の恋」(KINDLE)牟野素人訳-2 20年前の三角関係が今を苦しめる 1867年
3.オルシヴァルの犯罪(河畔の悲劇) Le Crime d'Orcival(1867年):明治22年・丸亭素人訳『大疑獄』、昭和4年・田中早苗訳『河畔の悲劇』
2023/07/17 エミール・ガボリオ「オルシバルの殺人事件」(KINDLE)牟野素人訳 19世紀の新聞小説は犯罪トリックより人間関係が反転するのに興味を見出す 1867年
4.パリの奴隷 Les Esclaves de Paris(1867年))
5.シャンドース家の秘密 Le Secret des Champdoce(1867年):上記作品「パリの奴隷」の続編。
6.ルコック探偵 Monsieur Lecoq(1869年)
2011/08/10 ガボリエ「ルコック探偵」(旺文社文庫)
2022/05/11 ガボリオ「ルコック探偵」(旺文社文庫)-2 1869年
2022/05/10 ガボリオ「ルコック探偵」(旺文社文庫)-3 1869年
牟野素人さんの翻訳は2「ファイルナンバー113:ルコック氏の恋」、3.「オルシバルの殺人事件:ルコック事件簿」、4.「巴里の奴隷たち 第一部 恐喝」、5.「巴里の奴隷たち 第二部 シャンドース家の秘密」。1.「ルルージュ事件」は別訳がでていて、入手難と思われた6.「ルコック探偵」は旺文社文庫の松村善雄訳がKindleに収録された。というわけで、ガボリオのルコック探偵ものの長編はすべて邦訳が出そろった。
牟野素人さんはほかに普通長編小説の「毒殺者の恋(バスティーユの悪魔) Les Amours d'une empoisonneuse(1863年)」(牟野素人訳の翻訳タイトルは「女毒殺者の情事」)と「他人の金 L'Argent des Autres(1874年)」(明治22年・黒岩涙香翻案『他人の銭』)、短編「バティニョールの爺さん」も邦訳している。
wikiにあるようにかなりの作品を黒岩涙香が翻案している。これらにいずれ手を出したい気持ちがあったが、読みやすさは現代語訳のほうが勝るので、牟野素人訳で読もうと思う。労多謝。
2023/07/21 エミール・ガボリオ「女毒殺者の情事」(KINDLE)牟野素人訳 1665年のバスティーユ監獄を舞台にした犯罪小説。19世紀の探偵小説は脱獄トリックに関心を持つ 1863年
2023/07/14 エミール・ガボリオ「他人の金」(KINDLE)牟野素人訳 放蕩息子も極悪おやじの悪行を見れば改心するという教訓小説、かな。 1873年
バティニョールの爺さん 1876 ・・・ 死後に発表された短編。文体や構成からみて長編にするための素描ではなかったかと、訳者は書いている。(KINDLEのレビューによると、「初出はパリの日刊紙Le Petit Journal1870年7月7日〜19日、掲載時は≪Mémoires d’un agent de la Sureté : Le petit vieux des Batignolles≫という題で、主人公のJ.-B.-Casimir Godeuil名義だったそうです」とのこと)
バティニョールのアパートで身なりのよい爺さんが刺殺された。死体の脇にはMONISという血で書かれた文字がある。他の遺留品はナイフのさや代わりにしたと思われるコルクと緑の蝋。吠えない犬。ピゴロー爺さんに身寄りはなく、遺産は甥のモニストロールに贈られることになっていた。そのモニストロールを逮捕するとすぐに自白した。しかし探偵メシネ氏は懐疑主義にあり、最近知り合った友人ゴドゥユが老人の左手が汚れていて右手はきれいなのを見つけて犯人が別であると指摘する(当時は文字を左手で書くのはマナー違反だったと訳者はいう)。捜査は暗礁に乗り上げたが、メシネ氏が妻カロリーヌに捜査の話をすると、あなたはモニストロールの妻に会うべきだったと指摘する。これは手抜かりと、メシネ氏とゴドゥユはさっそく美人妻を訪問した。彼女は服飾品店を経営しているが、このころの不景気で困っているという・・・。発端-現場調査-関係者事情聴取-行き詰まり-再検討-新たな希望-真相という探偵小説のフォーマットに見事にのっとっている。というより、エドガー・A・ポーが見出した形式をより読みやすくしたほとんど最初の作品といっていいのではないか。書かれたのは第三帝政(ルイ・ボナパルト)の時期。妄想をたくましくすれば、警察の捜査を丹念に描いたこの小説は警察活動の啓蒙になったのではないかと思う。無実の男がぬれぎぬを着せられ、それを救うために警察と探偵が奮闘するというテーマは啓蒙にぴったりなのだ。そこには、秩序維持を強要し、警察の捜査に異議をいわせない意図も含んでいただろう。
この作品はのちに黒岩涙香が「血の文字」のタイトルで1893年に翻案した。涙香訳は章立てはいっしょで、ほぼ逐語訳。もとから新聞小説だったのだろう。黒岩涙香訳は長くてたいくつだったが、この現代語訳ではそういうことはなかった。現代語訳のせいかな。
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