odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2015-04-01から1ヶ月間の記事一覧

エラリー・クイーン「ドラゴンの歯」(ハヤカワ文庫) 妙な遺言に多額な資産、それを相続するひとりの若い娘というクイーン得意のモチーフ

カドモスはギリシャ神話にでてくる英雄で、エラリーによると、シドンの国王で、テーベの都の創設者でギリシャに16文字のアルファベットを取り入れた人物で、探検にでかけてさまざまな困難や危険な目にあったが、そのばかげたことのひとつにドラゴンの歯を蒔…

エラリー・クイーン「災厄の町」(ハヤカワポケットミステリ)-2 執筆方法の変化は探偵の在り方を変える。

クイーンの執筆方法は長らく謎(自分の知識は1975年くらいで止まっている)だったが、次第に資料が出てきて、わかるようになってきた。簡単にまとめると、 1.オリジナルの「エラリー・クイーン」は、フレデリック・ダネイ(Frederic Dannay、1905年10月20…

エラリー・クイーン「災厄の町」(ハヤカワポケットミステリ)-1 探偵が事件に関与すると、理性の曇りをもたらし、だれの利害のために働くのかという戸惑いを生み出す

エラリーはニューヨークの喧騒をさけて(戦争がはじまったので)、列車で2時間くらいのところにある田舎町ライツヴィルに向かう。そこで小説を書くつもりで、町の創設者ライト家の「災厄の家」に下宿することにする。ホテルやアパートが満杯になっていたため…

エラリー・クイーン「靴に棲む老婆」(創元推理文庫) 探偵小説黄金時代の総決算で、家族の分解と復活テーマなどの後期の諸作品の前駆

ニューヨークのまんなかに奇妙な館と一家がいる。女主人は一代で靴の大企業を作ったやり手。心臓をわずらってそろそろ跡継ぎを考える時期にきていた。さて、この女主人コーネリアはとてもユニークで二人の気弱な男を夫にして、6人の子供をもうけた。前夫の…

エラリー・クイーン「十日間の不思議」(ハヤカワ文庫) エラリーの構築した論理は美しいが、あまりに空虚な虚空の伽藍。

ニューヨークでエラリーは戦前のパリで出会った彫刻家志望の青年ハワードと再会する。彼は記憶喪失になったので、その間に犯罪を犯してたのではないかと恐れている。エラリーの執筆がはかどらないことをきいて、仕事がてら自分を監視するように頼む。行き先…

エラリー・クイーン「九尾の猫」(ハヤカワ文庫) 「民主主義と自由の国」でもデマと恐怖感で人権や財産を破壊する行為を起こす。暴動と略奪はクイーンにとっては許しがたい

ニューヨークで連続殺人が起こる。深夜、人が寝静まった夜に事件が起こる。被害者は決まって絹紐で絞殺されている。犯人の遺留品や手掛かりはない。初夏に始まった事件で、盛夏までにすでに5人もの被害者がでていた。被害者を結びつける関連性は見当たらない…

エラリー・クイーン「犯罪カレンダー(1月〜6月)」(ハヤカワポケットミステリ) 恋人のような世話女房のようなニッキーにエラリーは絶対に誘惑されない。

初出は1952年。もとはラジオドラマのシナリオで、のちに小説に改作されてEQMM(エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジンの略)に連載された。カレンダーとあるのは、アメリカの毎月のできごとを舞台にしているから。 1 双面神クラブの秘密 (The Inner C…

エラリー・クイーン「犯罪カレンダー(7月〜12月)」(ハヤカワポケットミステリ) なじみのない祝日・記念日からアメリカの世相を読みとろう。

続いて下半期。こういう小説の面白いのは作者の無意識に書いた世相。これを読むと、1952年にはグリニッジヴィレッジはすでに芸術家のたむろする一画で、プロレスのTV中継が評判になっていた(ニューヨークだとゴージャス・ジョージとアントニオ・ロッカが人…

エラリー・クイーン「クイーン談話室」(国書刊行会) 昭和40-50年代の探偵小説うんちく本に書かれたエピソードのネタ元。21世紀には古い情報になった。

エラリー・クイーンは作家のほかに2つの顔をもっている。ひとつは探偵小説の書籍収集狂(この本の中で狂気の程度でいくつかに分類)、もうひとつは編集者。後者の顔の結果、おおくの短編集が編まれていて(いくつか創元推理文庫などで出版)、EQMMという雑誌…

入江徳郎「泣虫記者」(春陽文庫) 公助がない時代のサラリーマンはインサイダーグループを作って便宜を図りあうが、余所者にはハラスメントをする。

作者はジャーナリスト、ニュースキャスターで、1960年代に「天声人語」を書いていたこともある(へえ)。文庫にまとめられたのは1961年だが、1952年から断続的に描かれていたみたい。なるほど、明神礁がでてきたり(1952年のできごと)、戦争孤児の行く末が書…

赤塚行雄「戦後欲望史 4・50年代」(講談社文庫) 敗戦は日本人を貧困において平等にした。日本人は過去を反省しないが、したたかに競争する。

表紙は左から吉田茂、美空ひばり、マッカーサー元帥、マリリン・モンロー、力道山。この時代を象徴する人物としては欠かせない人たちですな。漏れているのは・・・思いつかない。 1985年にシリーズ3部作がほぼ一気に発売。戦後40年ということで、昭和をふり…

読売新聞編集部「マッカーサーの日本 下」(新潮文庫) 占領者の側から見た日本占領の記録。1948~1949年。マッカーサーに飽きた「おとなしいアメリカ人」たち。

下巻は昭和23年から24年にかけて。このころから占領政策が変わってくる。民政局とGIIの確執が起こるとか、民政局の大立者が辞任してその力を失うとか、もともと仲のよいわけではないトルーマン大統領がマッカーサーを解任したがったとか、アメリカ本国の外交…

読売新聞編集部「マッカーサーの日本 上」(新潮文庫) 占領者の側から見た日本占領の記録。1945~46年。

1945年から1952年までこの国はアメリカに占領されていた。外国の軍隊が駐留し、軍票が通貨として使えるところがあった(ドルの持ち込み制限があり、兵士は買い物にドルを使うことが難しかった)。この国の人々の活動が制限されることがあり、公職から追放さ…

竹前栄治「占領戦後史」(岩波現代文庫) 日本人が「恥辱」と思って忘れようとしている1945-1952年の占領時代のまとめ。

初出は1992年。2002年に改訂。1945-1952年の占領時代をまとめる記述。ここでは占領統治を担ったGHQは主題から外れている。なので、民生局と参謀部の確執とか、マッカーサーのパーソナリティとか、経済政策など興味あることがたくさんあるが、一切割愛。それ…

大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-3

2015/04/07 大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-1 2015/04/08 大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-2 敗戦が決まり、山中などに潜伏していた日本軍兵士が俘虜になる。新旧の俘虜は微妙な違いを見せ、反目する。米軍は豊富な物資と給与を俘虜に与え、衣食住が提供さ…

大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-2

2015/04/07 大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-1 アメリカ軍の捕虜となり、マラリアの治療が進むと、息切れと立ちくらみで動けない。診断は弁膜症。2か月の療養ののちに、病院棟をでて一般収容所に移動する。昔習った英語が、せっぱつまって口からほとばしる…

大岡昇平「俘虜記」(新潮文庫)-1

1948年に発表した連作小説。断続的に発表されて、のちに一冊にまとめられた。 戦前に帝国大学仏文科を卒業した男がいる。翻訳の腕を買われていくつかの会社で棒給生活者をしながら、スタンダールの研究をしていた。状況が一変するのは、1944年3月に36歳の高…

竹山道雄「ビルマの竪琴」(新潮文庫) 軍隊の行為は意図において正しく捕虜になった日本兵も心根が澄んでいたというお伽話。ビルマの戦禍の加害責任を一顧だにしない日本人の無責任を隠蔽している。

昭和21から23年にかけて連載された「童話」。童話としてはもとより市川昆監督の映画でも有名。作者の童話/小説はこれだけで、むしろ社会評論で名が知られている。自分はニーチェの翻訳者として知っていた。 15年戦争末期のビルマ戦線。孤立した小隊は部隊長…

井上清「天皇の戦争責任」(岩波現代文庫) 開戦から終戦までの政府首脳の動きを詳述。リーダーシップをあいまいにするこの国の〈システム〉が責任をあいまいにする。

これは半藤一利「日本の一番長い日」とあわせて読むのがよいな。「日本の…」では、8月14日から15日までのクーデター未遂が主に下級士官視点で書かれているが、こちらは開戦から終戦までの政府首脳の動きが書かれている。その資料は、「木戸日記」「杉山メモ…

井伏鱒二「黒い雨」(新潮文庫) 原爆被爆者は後遺症と差別デマに苦しみ、国と社会と世間に見捨てられる。

昭和25年6月。広島県神石郡小畠村の閑間(シズマ)重松は憂鬱だった。彼は5年まえに被爆し、ここにきて高線量被曝の後遺症が出て、農作業ができない。とうに勤めを退職し(というか戦後に勤務先が無くなった)、田舎で養生するしかないが、散歩をしていると…

石野径一郎「ひめゆりの塔」(旺文社文庫) 本土決戦の時間稼ぎで行われた沖縄戦で、腐敗した日本軍は現地住民を殺し、死を命じる。

昭和19年夏ごろから本土上陸阻止のために、周辺地域の軍配備を強化した。対象になったのは、フィリピン・台湾・沖縄。大本営などは沖縄上陸は当面あとと考えたので、沖縄駐留師団をフィリピンに移動する。本土からは、指揮官・参謀などの少数チームが派遣さ…