odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

ジュール・ルナール「ぶどう畑のぶどう作り」(岩波文庫) 正確なカメラのような眼を自然に向ける。視線や構図が独特。

 中学生のころは、同じ作者の「博物誌」がとても好きだった。とくに、短いスケッチ――ほとんどコント――が好きで、真似をしていくつもかいたのだった。しかし、子供をいじめる話である「にんじん」はどうにも手を出す気持ちになれなくて、ヘッセ「車輪の下」とともにたぶん読まないままであると思う。
 こちらは古本屋で立ち読みしていたら、「博物誌」のような――いちぶはまったく同じ――スケッチやコントが載っているので、読んでみようと思った次第。
 作者はオーストリアの作曲家グスタフ・マーラーの同世代人だ(ルナール:1864-1910、マーラー:1861-1911)。二人には自然好きというところに共通点があり、その一方で、彼らはやはり都会で生きてきたひとたちなので、完全に田舎の生活者というわけにはならない。二人ともに自然は自分の外にあって、観照するものであり、その中で生活するものではない、のだった。そのあたりの距離のとり方が、いわゆる田舎詩人あるいは自然派のひとよりも離れていて、ストイックであったり、シニカルであったりする。
 ルナールは、正確なカメラのような眼をもっていて、スケッチはどれも眼で見たものになっている。そのカメラの向け方が独特で、普通の人の高さや距離からではなくて、とても低いところからだったり、高いところからだったり、思い切り近寄ってみたり、さまざまな工夫をしている。そうしてみえる自然というのは、そこで暮らしている人と共通しているところがあって、擬人的なコントがたくさん生まれているのだ。
 こういう自然の見方というのは、日本の和歌や短歌に共通しているところがあるみたい。ひところはたくさん読まれていたはずだ。メルヘン、ファンタジー好きの人は読んでみたらいかが。