odd_hatchの読書ノート

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ロアルド・ダール「あなたに似た人」(ハヤカワ文庫) 〈あなたに似た人〉は読者のあなたよりハイブロウでハイソ。

 1976年3月のハヤカワ文庫創刊の初出は、「そして誰もいなくなった」「幻の女」「ウィチャリー家の女」などの圧倒的なラインアップで、ポケミスを買えない自分はすぐに購入した。あいにく高校生で小遣いに不自由していたので、なかなか揃えられない。「あなたに似た人」は半年後の1976年9月頃に購入(第2版だった)。すぐに読んだ。おもしろかった。さらに1年後の夏休み、英語の宿題でダールの短編3つを和訳せよというのがでた。「南から来た男」「お願い」もう一つは何だったかな。おかげで町中でハヤカワ文庫版が売り切れ(かどうかは知らないが、かなりの同級生が購入した。「いるか」と勧められたが、自分はすでに読んでいると答えた)。
1 味 (Taste)
2 おとなしい兇器 (Lamb to the Slaughter)
3 南から来た男 (Man from the South)
4 兵隊 (The Soldier)
5 わがいとしき妻よ、わが鳩よ (My Lady Love, My Dove)
6 海の中へ (Dip in the Pool)
7 韋駄天のフォックスリイ (Galloping Foxley)
8 皮膚 (Skin)
9 毒 (Poison)
10 お願い (The Wish)
11 首 (Neck)
12 音響捕獲機 (The Sound Machine)
13 告別 (Nunc Dimittis)
14 偉大なる自動文章製造機 (The Great Automatic Grammatisator)
15 クロウドの犬 (Claud's Dog)
 再読すると、自分にとっては居心地が悪かった。いくつかの不満(というより言いがかり)は、描写されているイギリス中流階級のライフスタイルが古びていること、賭けに興味がなくてむしろ嫌悪することろが自分にあるのでキャラクターたちが軽薄にみえること、女に対して辛辣かつサディスティックであること、などなど。解説の都筑通夫が指摘するダールの特長がそっくりそのまま自分にとっては心地よくない味になっているのだった。(ダールの紹介者は都筑道夫だが、のちに「騒がれすぎ」みたいな評価を下している。)
 「味」「南から来た男」の2つが圧倒的に優れていて、「おとなしい凶器」のヘンリー・スレッサー風なおとぼけにも味がある。皮肉な「偉大なる自動文章製造機」も高校生のときには高印象。1950年代に短編を量産した作家というと、ブラッドベリ、PKD、スレッサーあたりを思いつくのだが、ダールは彼らと比べると少しハイブロウ。パルプマガジンではなくて、もう少し高級な雑誌(ということは読み手は多少インテリの入った人)に発表していた。ここにあげた人たちが安いウィスキーを飲むようなキャラクターを創造し、読み手もそうだったとすると、ダールはフランスの高級ワインを高いつまみで飲んでいる感じ。良し悪しではなくて、マーケットのセグメントとターゲットが違うのだった、というお話。ダールがターゲットにしていた読者層がいなくなって、彼の小説は「古典」になったのだなあ、という感想。
 高校の宿題に感想文を書いておいたら、英語の教師に「(感想文は)いいできだ」と言われた。どんなことを書いていたのか。たぶん、これとあまり変わりがないのではないかと不安。

    


レイ・ブラッドベリ「火星の笛吹き」(徳間文庫)
レイ・ブラッドベリ「悪夢のカーニバル」(徳間文庫)
フレドリック・ブラウン「まっ白な嘘」(創元推理文庫)
フレドリック・ブラウン「復讐の女神」(創元推理文庫)