odd_hatchの読書ノート

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ポール・クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門 」(日経ビジネス文庫)-2

2015/05/13 ポール・クルーグマン「クルーグマン教授の経済入門 」(日経ビジネス文庫)-1

 後半は、1980-90年代のトピックをいくつか。金融規制の緩和で金融市場が大規模になり、ものを生産していないのにやたらと利益をだして高額の報酬ももらう連中が増えた。その反面、金融市場のばくちに失敗すると、でかい迷惑を市場と政府にかけることもあった。そのあたりの話題。

第4部 砂上の楼閣ファイナンス ・・・ 1980年代から金融緩和が実行されて、金融市場では過去は犯罪だったり規制でがちがちだったことが自由にできるようになった。それによる問題の発生。
 セービング&ローンは、元本保証と高金利で金をあつめてリスクの高いプロジェクトに投資(政府が預金を保証)。責任なしの自由で、ばくち打ちみたいな経営になった。おりからの不況でみごとにおおこけ。この対処法は、資本を集めさせ、できなければ破産して預金者に返済することだが、そうしないで放置したら余計に損が生まれて、救済の金が大量に必要になった。まあ、この国でも住専とかナントかとかでおなじことがあったなあ。
 そういう新興のファイナンス組織だけでなく、格式と歴史のある会社も同じことをしでかした。ロイズと住友商事(銅の先物取引)。むりやり共通点をあげれば、競合が増えて利益率が減ったのでリスクテイクする取引をするようになったのと、社内管理がなくて個人のやっていることを監視しなかったこと。
 乗っ取りとかLBOファイナンスで儲けを出す人が1980年代にたくさんでたが、そもそもファイナンスは世の役にたたない。なんとなくのいけいけムードでこの種のファイナンス商品を出した人の戦略にのっかっただけのよう。ここに書かれたのと(1989年)と同じことが、2000年のゼロ年代でも起きたね(サブプライムローン破綻のこと)。
 小野善康「景気と経済政策」(岩波新書)を参考に。
 グローバルのファイナンスはあんまり話題にならないのは、グローバルな資金移動や投資は経済全体から見るととても小さい。同じく輸出入も。GDPの数%という状態。なので、無視してもほぼ差支えない。それは累積債務の大きい貧乏国も同様。資金を引き揚げようが追加融資をしようが、貧乏国には関係しない。むしろ先進国の投資家の心理のほうが影響が大きい(投資するか引き上げるかを決定するのは貧乏国じゃなくて、こっちだし)。また先進国の協調経済政策も掛け声のわりに効果はびっくりするほど小さい。というのも、先進国の輸出入の規模が小さいから。G7なんか意味なし。むしろ金額の大きい国内問題から目をそらすことになりかねない。あと、EUは協調政策は重要かもしれないが、あんまり協調しすぎると、一国の債務像や金利の上下が他の国に波及しかねない(1990年の東西ドイツ統一が他の国の不況の原因になった。西ドイツの海外投資が東ドイツに向けられてたため)。

第5部 アメリカの未来 ・・・ 1989年(1994年)のアメリカのシナリオを3つつくる。オプションは、うまくいく、だめだめ、ただよう。まあ最後のがリアルかな。でもそれは1960-80年代の未来予測からするととんでもなく悲惨なシナリオなのだ。あと、どのシナリオも高齢化(2011年以降!)でおかしくなる可能性あり。高齢者への支給額が減るか、労働者の負担が増えるか、インフレが進行するか、どれもいやなことばかり。なお、1929年型の大不況は起きない(あのときは連邦準備銀行ベースマネーを増やさなかったのが原因なので、いまはたぶんうまくやれる)。あと楽天的すぎる政策でインフレが加速して、緊縮したら不況になることもあるので注意(アベノミクスは回避できるかな)。このシナリオは政治問題を無視している。たとえば、イラクアフガニスタンへの侵攻と駐留で財政赤字になるなんて考えもしなかったし。

番外編 日本がはまった罠(一九九八年) ・・・ 日本の不況についての分析と提言。理由はよくわからないけど、日本の国民は将来の収入が減ると予想していて、金をためておこうとしている。結果、需要が減って、供給は価格を下げる。すると収入が減るからますます需要が減って、という流動性の罠にかかっている。これを脱却するには、安定したインフレの期待を持たせて、現在の金が将来目減りするからいま使おうという風にかえましょう、ですって。ようやく2012年になってリフレ政策を取りますと宣言したら、この国の経済は好況になったらしい。もうちょっと時間をおかないと判断できないけど。
(2015年5月のおいらの感想は、規制緩和やマネーサプライの増加などは経済を活性化したけど、消費税増税で帳消しに。実体経済がよくなっていないのに、株価が上昇しているのはきわめて危険、です。)


 著者は繰り返し生産性、所得分配、失業の3つ問題を政府が本気でどうにかしたいとは思えない(かわりに小手先の弥縫策をとるか、集票できる話題に限っている)と指摘する。その政策は、短期ではただよいながら現状を維持するだろうと予測することになりそうだが、まったなしでくるのは戦後ベビーブーマーが定年をむかえ、一斉に年金ほかの社会福祉を利用することになること。上記のように、高齢者の支給を減らすか、労働者の負担を減らすか、インフレを起こすかになる。書かれた1989年当時だと、1946年生まれが70歳になるのは2011年の20年後で切迫感はなかったのだが、さてその年を過ぎたいま(2013年)、どうするのか。アメリカでさえそうで、この国だと移民が極めて少ないために、労働人口が増える可能性がほとんどない(移民を迎える政策は失業者の不満をふやすことになるしで、本気で取り組むとはおもえない)ので、しわ寄せはどこかにいくわな。とりあえず60歳定年で悠々自適な生活というのは遠い憧れで、70歳になってもしこしこ仕事をすることになるのだろう。とペシミスティックな予感を持ってしまった(→それが将来の現金は現在より価値があると考える流動性の罠にはまる原因なのだがね)。