odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

2018-02-01から1ヶ月間の記事一覧

ウィルキー・コリンズ「白衣の女 上」(岩波文庫) 純情で世間知らずのウォルター・ハートライトくんと可憐な美女ローラ・フェアリーちゃんの恋愛は互いの一目ぼれで始まる。でも結婚するには障害ばかり。

初出1860年というと、この国はまだ封建時代にいて、このような近代的自我を描く小説はなかった。汽車と馬車と徒歩で移動し、郵便で情報交換するしかない時代の物語は悠揚迫らず、心地よい陶酔(睡魔ともいう)に読者を誘う。筋立てや謎はゴシック・ロマンス…

ウィルキー・コリンズ「白衣の女 中」(岩波文庫) 病弱で身の回りの世話をできない上流階級の女性がいじめられ、ハートライトくんは真実の愛を発見する。

2018/02/27 ウィルキー・コリンズ「白衣の女 上」(岩波文庫) 1860年 小説はさまざまな登場人物による手記や日記、手紙など。事件を鳥瞰できるものはいないし、神のようにすべてを見通す視点も存在しない。それぞれの人物による制約や偏見がある文書を読む…

ウィルキー・コリンズ「白衣の女 下」(岩波文庫) パーシヴァル卿とフォスコ伯爵の陰謀。それは二人の女性を苦痛にまきこみ、青二才の青年を自立させた。

2018/02/27 ウィルキー・コリンズ「白衣の女 上」(岩波文庫) 1860年 2018/02/26 ウィルキー・コリンズ「白衣の女 中」(岩波文庫) 1860年 第2部の終わりに、ウォルター・ハートライトが帰還。期待通りにたくましい男になって、ハルカムとローラのまえに…

ウィルキー・コリンズ「月長石」(創元推理文庫)-1 インドから強奪した宝石は植民地経営によって富を得た一家に禍いをもたらす。イギリスの凋落を予感させるできごと。

1868年発表の長編。大長編。活字が小さくて行間の狭い創元推理文庫版で770ページもある。このごろのゆったりしたレイアウトにしたら1200ページを超えるのではないかしら。 プロローグ セリンガパタムの襲撃(一七九九年) ある家の記録よりの抜粋 ・・・ バ…

ウィルキー・コリンズ「月長石」(創元推理文庫)-2 この小説には「探偵」がいないが、手記を集め編集した者こそ「探偵」と呼べるかもしれない。

2018/02/22 ウィルキー・コリンズ「月長石」(創元推理文庫)-1 1868年 この長編は事件にかかわったフランクリン・ブレークが関係者に手記を書くように手配し、ほとんど手を加えないで、つなげたという趣向になっている。事件全部にかかわる「探偵」はいない…

ウィルキー・コリンズ「月長石」(創元推理文庫)-3 大きな謎解きは終わり小さな謎を追いかけるが、読者も作者も青二才の若者が結婚できるかどうかのほうが気がかり。

2018/02/22 ウィルキー・コリンズ「月長石」(創元推理文庫)-1 1868年 2018/02/20 ウィルキー・コリンズ「月長石」(創元推理文庫)-2 1868年 もっとも大きな謎は解けたとはいえ、まだまだ未解明な点が多々あり、捜査と冒険はこのあとも続く。 第四話 エズ…

A.M.ウィリアムスン「灰色の女」(論創社)-2 控えめな女性に一目ぼれした青臭い男性が一途に追いかける。三角関係やライバルが出現してもなんのその。

A.M.ウィリアムソン「灰色の女」(論創社)を10年ぶりに読み直し。 2011/05/11 A.M.ウィリアムスン「灰色の女」(論創社) まず、登場人物表。ウィリアムソン「灰色の女」は、明治と昭和に黒岩涙香、江戸川乱歩によって翻案された。舞台や人名を変えているの…

A.M.ウィリアムスン「灰色の女」(論創社)-3 象徴的な「死と再生」の儀式を経た青年は迷わない。怪物を退治して名声や愛や富を獲得する。

2011/05/11 A.M.ウィリアムスン「灰色の女」(論創社) 2018/02/16 A.M.ウィリアムスン「灰色の女」(論創社)-2 1899年 続いて後半。テレンスくんの大冒険が始まる。 第3部(第20から24章まで): ミス・トレイルが怪しげな男と話をしている。テレンスは尾…

A.M.ウィリアムソン「灰色の女」の映画、出版に関する情報まとめ

英語版のwikiには作者Alice Muriel Williamsonのページができていた。 A. M. Williamson - Wikipedia 「A Woman in Grey」はペーパーバックで出版されたらしい。 https://www.amazon.co.jp/dp/1241205671 itunesでも読めるらしい。 ‎A Woman in Grey. [A tal…

コナン・ドイル INDEX

2018/02/9 コナン・ドイル「緋色の研究」(角川文庫) 1887年 2018/02/08 コナン・ドイル「四人の署名」(創元推理文庫) 1890年 2018/02/06 コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」(角川文庫)-1 1892年 2018/02/05 コナン・ドイル「シャーロック…

コナン・ドイル「緋色の研究」(角川文庫) 1880年代、アメリカはヨーロッパよりも遅れた国であり、伝奇小説やゴシック・ホラーの舞台にふさわしいと思われていた。

シャーロック・ホームズ登場の第一長編。この大成功で、売れない医師で売れない作家だった著者は、世界的な名声を獲得することになった。 1887年のロンドン。ある空き家に一人の男が死んでいるのが発見された。被害者はアメリカから渡ってきた男性で、身元は…

コナン・ドイル「四人の署名」(創元推理文庫) 突出した才能と自己破壊的・衝動的・社会性のなさという「天才」の条件を備えたのが名探偵。

事件の依頼がなくて無聊をかこつホームズは、モルヒネかコカインに手を出すくらいのことしかすることがなかった。そこにモースタンという27歳の女性が来た。父がいなくなってから、高価な真珠が届くようになり、今度は会いに来てという手紙(四人が署名する…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」(角川文庫)-1 「ボヘミアの醜聞」「赤髪組合」「唇の捩れた男」。外部の記録装置に容易にアクセスして検索できるようにしたのがホームズの探偵方法。

「四つの署名」事件でワトソンは結婚し、ホームズとのルームシェアは解消した。それから2年たって、落ち着いたワトソンはホームズとの旧交を温めることにした。すっかり「名探偵」の名声をほしいままにするホームズのもとには様々な依頼人が悩みを抱えて相談…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの冒険」(角川文庫)-2 「まだらの紐」「青い紅玉」。世間の相場を越えた奇妙なアルバイトには注意しなさいとドイルは警告する。

前半6編を書いたところで、ホームズ短編のフォーマットができる。ホームズとワトソンの雑談-依頼者の相談(ホームズの推理で依頼人が驚く)-二人の相談-ホームズの調査-待ち伏せ、追跡、コンゲームの誘い-サスペンス-大団円。 青い紅玉 The Adventure of the…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの回想」(角川文庫)-1 「白銀号事件」「黄色い顔」。近代化が進み犯罪に対する意識が変化したが私的制裁ができなくなったので、謎を解く超人が求められる。

ホームズは汽車にのって郊外にでかけ事件を捜査する。商用自動車、公共バスなどない時代(代わりに馬車があった)に迅速に移動する手段は汽車が唯一。19世紀前半の産業革命は、イギリスの運輸に多額の投資を行い、それが全国の鉄道網になった。1880-90年代の…

コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの回想」(角川文庫)-2 トリックの創意もなくなって、作者コナン・ドイルがホームズに飽きているのが目に見えるよう。

1890年代というと、ヨーロッパでは内乱や蜂起がなくなり、ヨーロッパを主戦場にする国家間の戦争も小休止。第一次世界大戦までの束の間の平和を楽しんでいた。しかし、アフリカや中近東、東アジアの植民地化を推進する帝国主義国家は、西欧の外では植民地を…