odd_hatchの読書ノート

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A.M.ウィリアムスン「灰色の女」(論創社)-2 控えめな女性に一目ぼれした青臭い男性が一途に追いかける。三角関係やライバルが出現してもなんのその。

 A.M.ウィリアムソン「灰色の女」(論創社)を10年ぶりに読み直し。
2011/05/11 A.M.ウィリアムスン「灰色の女」(論創社)

 まず、登場人物表。ウィリアムソン「灰色の女」は、明治と昭和に黒岩涙香江戸川乱歩によって翻案された。舞台や人名を変えているので、その異同をみておこう。

 以下は「灰色の女」のストーリーのサマリー。黒岩、江戸川の翻案もほぼ同じ。「前史」「第〇部」は自分による便宜的な区分。

前史: 名誉革命の頃の1651年に、アモリー家の先代が「ローン・アベイ館」をたてた。巨大な時計塔がシンボル。そのときから、幽霊が出るという噂が立った。アモリー家の当主はアモリー問答なる散文を暗唱して代々伝えていたが、いまは直系の血筋は絶え、知る人はいない。20年前にこの館を女中頭が買い取り、幽霊のでる部屋に住んでいたが、ある夜殺された。死ぬ前に下手人の腕の肉を噛みきっていて、同居している養子と養女と女中のうち、女中が疑われた。犯人ということで収監されたが、二年後に死亡。養女と養子の行方は知れず、館は無人になっていた。

第1部(第1から11章まで): アモリ―家の傍系にいるウィルフレッド・アモリー卿が館を買い取ることになり、甥のテレンスに下検分に行かせる。テレンスは屋敷の墓地に佇む美女「灰色の女(グレイの服をいつもまとい、長手袋をしているので)」にあう。彼女は誰も鳴らせない時計を動かし、テレンスに幽霊のでる部屋を使って、聖書とアモリー文書を調査しろと命じる。なるほど彼女のいう通り、古い聖書とアモリ―文書がなぜか邸の中で見つかった。彼女はアメリカから来た女流作家で「琥珀の中の蠅」という本で有名。あるパーティでアモリー卿とテレンスは「灰色の女」コンスエロ・ホープに再開する。卿は見るなり失神。テレンスは彼女のコントラアルトの歌声にしびれる。しかし、テレンスのフィアンセ、ポーラ・ウィンはすぐに嫉妬。コンスエロを20年前の女中頭殺人事件の犯人と告発。すぐさまそれは否定される。コンスエロはポーラの手紙で温室に呼び出されるが、そこには虎がいた。コンスエロを追っていたテレンスは屋根裏から虎に向かうがのしかかられる。コンスエロは部屋にあった猟銃で虎を射殺する。ポーラはテレンスとの婚約を解消し、家を出てしまう。
(アモリー卿は妻と娘を亡くしていた。コンスエロはミス・トレイルという夫人を従えている(なぜかマングースといつもいっしょ:黒岩涙香版ではサルになる)。ここらも伏線なので、とりあえず覚えておこう。それにしてもテレンス29歳の青臭さがめだつな。それに対してコンスエロの自立ぶりがめざましい。ポーラのいじめをきちんとはねかえすわ、猟銃をうって男を救うわ、ひとりで旅行するわ、本を書いてベストセラーにするわ、歌姫で人々を魅了するわ。それでいて当時のモラルにあうように男を立てて、控えめであろうとする。こういうのが女性によって書かれたことに注目。)

第2部(第12から19章まで): アモリー卿はコンスエロを秘書にしたばかりか養女にすることにする。アモリー館の改修が済み、関係者を招いてパーティ。その席に、ポーラが女中頭の養子ジョージ・ヘインズ・ハヴィランドを新しいフィアンセと紹介して二人してやってくる。当然、ポーラの敵はコンスエロであり、館の一室で対決。テレンスは闇に紛れて二人の喧嘩を聞いているが、背後から後頭部を殴られ昏倒。密室状態の部屋からポーラは失踪する。フィアンセの養子は濠にいると主張するので人手を出してさらうと、首なし死体が発見される。これこそコンスエロの仕業と決まるところ、テレンスの証言で昔負った傷がないということで、ポーラの死体ではないと決せられる。
(ポーラが恋の敵役になって前半は大活躍。コンスエロと同じ邸に住むことになって、テレンスは有頂天。ポーラの検死審問のあと、告白するがコンスエロにうまくはぐらかされる。いやあ、やきもきさせるねえ。)


 ルネサンス期に建てられた古城。失踪した建築主とそこに隠されているとされる財宝の謎。頻出する幽霊の目撃譚。鳴らない大時計が鳴る。真相の明らかでない殺人事件とその容疑者のあかしな行方。殺人のあった部屋で起こる怪異。古城に残された古書と暗号。前歴をひたかくす謎の美女。なぜか彼女を知っている素振りを示す老人。美女の隣には他人を拒絶するよそよそしい女性。マングース、トラなどの異国の凶暴な動物(当時マングースは狂暴と思われていたらしい)。職業不詳で犯罪のにおいのする田舎者。蜘蛛農園、松の木の下に掘る墓穴、得体のしれない老婆に医師、汚い屋根裏部屋、犯罪の形跡、幽閉された白痴、隠された殺人機械、暖炉の炎。ゴシック・ロマンスの意匠がそこかしこにちりばめられていて、まことに壮観。


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