odd_hatchの読書ノート

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高木彬光「邪馬台国の秘密」(角川文庫)

 「邪馬台国はどこにあったか?君臨した女王・卑弥呼とは何者か?この日本史最大の謎に、入院加療中の名探偵・神津恭介と友人の推理作家・松下研三が挑戦する。一切の詭弁、妥協を許さず、二人が辿りつく「真の邪馬台国」とは?発表当時、様々な論争を巻き起こした歴史推理の一大野心作。」

 「邪馬台国の秘密」だと、肝は(1)使節団が上陸したのは唐津市ではなく、博多湾東側の新宮町あたりだ(そうなると、韓国から対馬までの距離と対馬から上陸地点までの距離が同じくらいになる)、(2)個別の移動距離の合計と、最後の総計値の違いは誤差である、ということになる。その結果、大分県宇佐市邪馬台国なのだ、という主張。どちらも、完璧な答えとまではいかないねえ。
 問題は「邪馬台国事件」の証拠はすでに集められた、そこから論理的合理的な結論をだそうというところにある。フィクションとしてのミステリは、小説の作中にかかれたことがすべてである、そこから論理的合理的な解決があるという前提で成り立っている。フィクションだから、そのような前提を持たせてかまわない(だからミステリ作家のフェアネスというのが問題になるのだ、自分はあまり興味のない議論だ)。しかし現実においては、証拠が完全に出揃うことはないし、「邪馬台国事件」の問題は位置だけではない。その周辺の歴史との整合性をとることにもある。魏志倭人伝の記録と人の運動能力と若干の地図だけで証拠が集まったとするわけにはいかない。神津探偵、事件は本の中でおきているのではないのですよ。事件は歴史でおきているんだ(うーん、パロディとしても面白くなかった)。
 個人的な考えは、邪馬台国がこの列島のどこにあってもかまわないし、位置が特定されたとしても、これまでの歴史記述が根底から覆されるということもないだろう、ということ。西暦200年には、この列島には部族社会をすこし大きくしたくらいのシャーマンが統治する国家しかなく、無文字社会であった。一方、大陸ではその500年前から中央集権制があり、法が整備され、文字が統治に使われていた。この差異のほうが重要だと思う。

<参考エントリー> 邪馬台国前後の中国の様子。
2012/04/20 貝塚茂樹「世界の歴史03 中国のあけぼの」(河出文庫)
2018/03/26 宮崎市定「世界の歴史07 大唐帝国」(河出文庫) 

    

 フィクションとしては、鯨統一郎邪馬台国はどこですか」のすっとぼけかたに激しく笑うことができる。そうなんだ、宮沢賢治邪馬台国民の末裔で、イーハトーブはその言い伝えを書いたものなんだ! なんてね。

バーバラ・スィーリング「イエスのミステリー」(NHK出版) - odd_hatchの読書ノート