odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

荒俣宏「異都発掘」(集英社文庫)

 もとの記事が書かれた1985年というと、近年の好況を受けて、金の流動性が高まり、結果としてものの価値が高いとみなされるようになった。とくに土地の価値が高いことになり、企業・個人が競って土地と建物を投資目的で購入した。そのとき、古い建物でそれほど利用されていないもの、古びて修理するより新たな立て直しの方が良いと思われたものが、買われて壊されて新規の建物に変わった。いろいろつくられたけど、自分にとってはサントリーホールのある全日空ホテルと都庁がその時代の建物の象徴かな(有楽町駅前にあった旧都庁は古くて狭くて使い勝手のわるいところだったが、紙と人がたくさんいる活気のある場所だったなあ。今の都庁は広いけど、冷たくて、長時間いたいとは思えない)。とういうことは同時に、古いもの、特に戦前からあるようなものが壊され、消えていった。

 そのころに書かれた「アナクロ」の記録。東京を「TOKYO」としてみるのではなく(当時、横文字の肩書きの連中が世界各国から来て、夜な夜なホテルやらディスコやら繁華街で遊んでいた)、無くなるもの、消えるものを記録しておこうという試み。そのときの切り口が、「軍事」「風水」「地下」「南洋」「快楽」「怨霊」「幻想」などなど。こういう昭和20年以前にあったもの、その時代に生きていた人の記憶に残るものを集めるのだった。このときの記憶はせいぜい100年前までの明治維新から文明開化までにとどめる。べつの本(「日本妖怪巡礼団」(集英社文庫)「怪奇の国ニッポン」(集英社文庫)「東京妖怪地図」(祥伝社文庫)では、江戸以前の記憶に遡るのであわせて読んで、とりあえず平将門の乱からの1300年ほどの記憶が江戸≒東京に残っていることを覚えておこうか。
 この本で繰り返されるように、江戸≒東京はものとして残る記憶は本当に少ない。文書や図像でよすがをしのぶしかない。パリやローマにように掘り進むと2000年の歴史が開示される大陸都市ではないから。江戸川や荒川の湿地帯で、埋め立てられたのはつい最近。掘ると海水が吹き上がるような水上都市だったからね。まあ、その表層だけしかないというのが、変化し続け、土着のものを決して産まない場所にするのだろうな。
 面白かったのは、ときおり非日常が東京に出現して、それが人々の記憶に残ること。関東大震災とか226事件とか3月10日の空襲とか1960年代後半の1021反戦デーとか1995年の地下鉄サリン事件とか。人が路上にあふれ身動きのとれないような非日常が祝祭と鎮魂の記憶になって、より強い印象となって記憶に残る。そういう幻想の場所なのかなあ。
 この本とか「建築探偵術入門」(文春文庫)とか藤森輝信「建築探偵の冒険」(ちくま文庫)とか「東京路上博物誌」(鹿島出版会)をもって、1990年代に都内をよく歩いたなあ。記事が書かれたときから四半世紀が経った今(2013年)となると、取材で訪れた場所で当時は残っていたものも既にないだろうなあ。当時の最新の建物も古びてしまったのだろうなあ。そうすると、幻想の都市はこういう本で思い起こすしかないけど、映像では押井守のアニメや実写映画に、この本などにでてくるモニュメンタルな建物がよく登場する。パトレイバーのふたつの映画とか「人狼」に顕著。ほかの映画にもあるので、いっしょに読み、見ることを推奨。