1961年から1976年ころまで(文庫は1989年だが、単行本は1982年)。著者も読者も経験した時代のことなので、著者は歴史学者ではなく、社会学者となった。多くの住民運動の調査の携わり、政府や官庁の資料には現れない情報が加わっている。一方、これまでのような編年的な記述でないので、いつどのような事件があり誰が関係していたかは分りにくい(章をまたいで登場しているため)。
経済の高度成長 ・・・ 1954-74年の20年間。経済発展の外的理由は芝垣和夫「講和から高度成長へ 昭和の歴史9」(小学館文庫)-2に書いた。内的には、人口ピラミッドが正三角形で労働者や若年層が多く、消費意欲が高かったので市場が急拡大、農村の生産性向上で余剰労働力を工業・商業が吸収して急成長したのが大きい。企業では欧米の最新特許を買って量産化したので、研究開発投資が少なく済んだのもよかったのだろう。成長分野とは関係なく政官財の複合体が形成された。これで与党の力が強くなり、政権交代が困難になった。食糧自給率がさがり、輸入依存になった。
(日本人は資源や利益の再分配が苦手。税収があがっても自治体は有効な使い方をみいだせず、祭りで蕩尽するか、誰も使わない施設の建設費になった。公共福祉の概念がなく、ステークホルダーに平等に分配した結果、地域共同体に適切な投資が行われなかった。社会保障が不充分だったので、企業が福祉の一部を負担したが、1990年代ですっかり行われなくなった。)
都市化と大量消費社会 ・・・ 大都市への人口流入、それによる都市近郊の混乱。アメリカ型の消費社会。個人商店からスーパーへ。家電店のメーカー系列化。高速道路と新幹線。
(21世紀の20年代にいたる生活スタイルがこのときにできあがる。男性の勤勉は地元共同体や政治への無関心になり、自治体の負担が増える。少子高齢化が進むときに、この時の生活スタイルと公共インフラ、自治体財政が足かせになっている。)
「企業国家」と地域開発 ・・・ 財政政策は、社会資本充実→国際競争下の産業構造の高度化→企業合同(規模拡大)→人づくり→福祉を基本にして、まず企業の投融資を行い税制の優遇を与えた。国家財政の多くの部分が地方財政へ委任(機関委任事務と国庫支出金で中央集権化)。地方の自治が国家管理になり、行政サービス、居住環境整備などが遅れた。巨大開発(工場誘致、イベント誘致など)を行ったが、自治体には良い影響はなかった。
2011/06/13 橘木俊詔「企業福祉の終焉」(中公新書)
「公害先進国」日本 ・・・ 先進国になった理由は、企業の公害対策の遅れ(というか放置)、公害を起こしやすい企業が多数、都市への人口集中、大量高速輸送体系、大量消費大量廃棄の生活スタイル。水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害は企業と国家の責任を問う裁判になった。実態と対策に関しては参考エントリーを参照。公害の被害者救済と対策を進めたのは住民運動のせい。日本の公害被害が少なくなったのは、発生源となった工場が海外移転したのが大きい。
過密の都市と過疎の農村 ・・・ 過密の年は住宅難と廃棄ゴミの処理の困難などを生む。過疎の農村は公共サービスが維持できない。21世紀になると、この時代に作られた造成地が災害被害を受けやすく、手入れされない山林が大量の土砂等を流出して被害を拡大している。災害が発生しても、国は放置している。(2018年西日本豪雨で災害が発生していた時、政府閣僚は「赤坂自民亭」で宴会をしていた。同種の政府の無責任は繰り返されている。)
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2022/11/28 宮本憲一「経済大国 昭和の歴史10」(小学館文庫)-2 1989年に続く