odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

ルイス・キャロル「愛ちゃんの夢物語」(青空文庫)

 著者名はよく知っているのに、不思議なタイトルになっているのは、1910年に丸山英觀が翻訳した版だから。この国の「不思議の国のアリス」の初訳ではないが、とても古いもの。当然、21世紀に本を入手できるわけもなく、青空文庫に復刊されたもので読んだ。

www.aozora.gr.jp

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国立国会図書館デジタルコレクション

dl.ndl.go.jp

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国立国会図書館デジタルコレクションは原本の画像PDF。)

 手元の山形浩生訳と比較すると、原文の8割くらいを訳出していて、ところどころに行ごと飛ばしたところがある。当時は原文を逐次翻訳するという思想はなくて、訳者の考え(編集者の意向)で縮約にすることはざらにあった。丸山の訳は割と原文に忠実なほうではなかったか。
 最初に気づくのは、イギリスの固有名を日本語になおしているところ。例えば、アリス-愛ちゃん、ダイナ-玉、エイダ-松子という名前に関するものから、マーマレード-橙糖菓のような日用品や食品に関する名前も。イギリスの風俗や習慣をそのまま書いても、当時の日本人にはまず理解困難(場合によっては翻訳者もなにかわからない)。なので、似たような文物に置き換えることをする。少し前の時代の黒岩涙香も似たような翻案をしていた。まあ、黒岩は元のことばの音によく似た人物名にしていたが、ここではそこまでのことはしていない。
 キャロルの小説で面白いのは(翻訳者泣かせなのは)、ことば遊び。mad tea partyを「狂人(きちがひ:ママ)の茶話會」としたり、海亀の奇妙な学科名も「算術の四則、―――野心、亂心 、醜飾、それに嘲弄」とがんばっている。

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 あいにく、キャロルの小説は自分の好みには合わないので、一生懸命読まなかった。途中、素っ飛ばしたところもある。そうなったのは、好みの合わなさもあるが、同時に翻訳の文体に興味をひかれなかったというのもある。柄谷行人日本近代文学の起源」によると、この国の近代文学は明治20-30年代に作られたが、そこで発見された児童をベースに児童文学がそのあとに作られた。日露戦争以降とするのがよいのだろう。翻訳ができた1910年には小川未明鈴木三重吉らの最初期の児童文学者が活動を開始した時期に重なる。すでに、児童文学の文体ができていた。そうすると、今日の児童文学と、衣装は古くても(上のような固有名)、文体は現代のそれとさほど変わりはない。
柄谷行人「日本近代文学の起源」(講談社文芸文庫)-1
柄谷行人「日本近代文学の起源」(講談社文芸文庫)-2
小川未明「童話集」(旺文社文庫)

 愛ちゃんも、原作では4-5歳であるが、ここではもう少し年長のおしゃまでしっかりしたお嬢さん。そういう聞き分けのよい子供像も、近代が見つけるとともに、子供に規範としておしつけていった。その点では、「愛ちゃんの夢物語」も子供と一緒にナンセンスを楽しむよりも、大人の考える正しい子供像を子供の押し付ける教育書の役割をもっている。
 そうすると、苦労せずに読めるが、文体の違和感が消える。翻訳の苦労への想像力も消える。
 ごめん、途中で読み通すのを断念。(画像はネットの拾い物)

 

 下記のブログが詳しいです。

ameblo.jp

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「二つの『アリス』物語のうち、日本で最初に紹介されたのは『鏡の国のアリス』であった。長谷川天渓(1876-1940)が『鏡世界』の題で抄訳したもので、雑誌『少年世界」の明治32年4月15日号(第5巻9号)から12月15日号(第5巻26号)まで連載されていた(全8回)。ここでは『アリス』の邦訳第1号である『鏡世界』の全文の画像を公開する。」

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