odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

興梠一郎「現代中国」(岩波新書)

 そういえば毛沢東が死ぬまでのことは何冊か読んでいたが、その後の中国のことを知らないと思ったので、古本屋で中国関係の本をまとめて購入。一冊105円で、4冊合計420円。定価で買うとこの6倍くらいか。ありがたや。

訒小平の遺産」は1995年刊。毛沢東死後、華国鋒との政権争いに勝利し、政治の統制体制と経済の市場化をすすめることになった訒小平の動きを記述。もともと訒小平は「共産主義人間」ではないという批判もあったし、有名な「白猫でも黒猫でも鼠を捕るのがいい猫」(もとはことわざで、白ではなく黄色であり、しかも発言後しばらくはこの文章は削除されていた)の発言にあるように、権力奪取と維持のためには機会を逃さないという戦術家でもある。

 高木桂蔵「客家」によると、訒小平は「客家」の出身であって、客家の家父長的な親族・同族関係でもって、共産党および中国全体を統制したいというのが訒小平のやりかたであるらしい。客家出身の政治家はたくさんいて(他の漢人らは、政治家・軍人を嫌い、商人を選択する傾向が強い。客家は逆に政治家・軍人を目指す)、孫文蒋介石朱徳などなど。客家はさらに同族意識が強く、かつ独自の言葉をもっている。1930年代の共産党危機の時代、共産党が立てこもった地域は客家の多いことろで、訒小平が彼らの説得役、まとめ役であった。また長征で落伍した兵士のうち、客家の地域にいたものは生き残り、そうでないところ出会った場合は殺されることが多かったという。

 という具合に訒小平の独自性または中国の歴史性を見た上で、1995年訒小平没後を興梠一郎「現代中国」2002年刊で見てみると、1990年代は全国的な混乱・流動化というしかない。共産党一党独裁を維持することと、経済の市場化を推進することは矛盾しているのに(それまで党=国家の持っていた国営・公営企業を市場の競争にさらすことになるわけで、すでに不効率のかたまりである国営企業は無残な状態になり、そこに依拠していたセイフティネットが働かなくなり、極端な格差が発生し、中央が地方を統制できなくなって各地が勝手な指導を始めるわ、勝手に資産を販売したり暴力団と連携するわと無茶苦茶)、それを推し進めていて、さまざまな問題を噴出させ、解決に至るまでに行かない、という状態。大きなポイントは、やはり人口増加と高齢化。すでに食糧の輸入国であるうえに、人口増と経済発展が進んだとき、世界のどこが中国を食わせることができるのか。日本の高齢化も問題を抱えているが、それより20年遅れで問題が顕在化する中国はセイフティネットがないので、さらなる大きな問題になりそう。
 重要な論点を忘れた。一党独裁の状態において、党の下部組織を監査・監視・指導することが可能かということ。下部組織は、国営企業であり軍隊であり地方党組織であり地方行政機関であり・・・。これらの成員は重複していることが多いだろうし、さらには仕事の範囲が不明確で、権限も不明確。こうした状態で相互チェックが可能であるかどうか。この種の議論は、資本主義経済下の企業統治論で存分に行われていて、結局はステークホルダー全員に情報が公開され、公平な議論ができることが必要ということになっているのではなかったか。「民主集中制」(これは日本共産党のことば)では、この種の情報公開と自由な議論は前提になっていない。