odd_hatchの読書ノート

エントリーは2400を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2020/10/13

都筑道夫「夢幻地獄四十八景」(講談社文庫)

 1972年出版のショートショート集。文庫になったのは1980年。
 ショートショートだけを集めたものはいっきに読み通すのがなかなか難しい。話題や主題が奔放に飛んでいくので、数編前のがどんな話だったかを思い出せなくなる。そのうえ一冊全体の印象を持てない。あとで、あの話はいったいどの本に収録された、だれの作品だったかなあというのを思い出せない。頭の中にインデックスをつくれないし、一編ごとのサマリーをつくるのもおっくうになる。そういう点では解説の谷川俊太郎がいうように、ショートショートは無名性があるのだろうね。
 そこで工夫をすることになり、たとえば星新一は「ノックの音がした」から始まる話だけを集めた一冊をつくったり、民話や童話のパロディを集めたりした。都筑道夫が「夢幻地獄四十八景」で行ったのは、タイトルを伊呂波48文字で始めること。「い」から「す」(または「京」)まで全48作。なるほどこれなら、あとで思い出すときの良いタグになるね。付録として教訓かるたのパロディ12編もおさめる。「犬も当れば車にあたる」などで現代を皮肉るようなものなど。

 出版年は1972年だけど、かかれたのは60年代になるだろうと推測。「血のスープ」の「寸断されたあとがき」によると、「昭和41年の3月27日から翌年の3月20日にかけて、サンケイ・スポーツ新聞の日曜版に私はショート・ショートを連載した。『異論派かるた』という総題で、第一回がいの字の頭につく題名(略)、一回が原稿用紙7枚半の読み切り連載だった」との由。作家活動としては初期のころ。
・タイトルが「異論派かるた」とあるように、のちの「なめくじ長屋」や「キリオン・スレイ」でよくやった当て字の遊びがここでも。
・「夜の声」という一編がある。のちに改作されて「風見鶏」という短編になった。「ミステリー指南」に改作の様子が書かれている。作家というのは、ここまでこだわり、磨き上げるのかと驚く。
・「秘術」という一編がある。登場人物が「勢多迦」。「ばけもの」という一編がある。「サアスケ」や「サイゾウ」が登場。のちの「暗殺心」「フォークロスコープ日本」などにつながる。
・「京人形」という一編がある。戯作者山東京伝が探偵をするという話。のちに「春色なぞ暦@はだか川心中」(剄文社文庫)で江戸後期の戯作者・為永春水を探偵役にした3つの短編を書いている。のちの戯作趣味の端緒になるかな。
 SF、ミステリー、時代劇、活劇、現代風俗もの、などジャンルの広がりが大きい。これは、ほかのショートショート作家には見つけにくいところ。上のように、話を思い出せないというのは一緒でも、読んでいる間は話の多彩さに酔えます。作家のショートショート集ではこの一冊が代表作だと思う。