odd_hatchの読書ノート

エントリーは3000を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2023/9/21

法月綸太郎「ノックスマシン」(角川文庫) 探偵小説を語るためには探偵小説がかかれた社会を再現するしかないのか。袋小路に入って自作パロディだけになっている探偵小説の最前線。

 「そうそう、こういうのを読みたかったんだよ」というすれっからし、ファン、マニアの声が聞こえそう。おれも数ページを読んだだけで、これは俺の求めていた本だと確信した。過去に作者の本はでるたびにすぐ読んでいたが、このところ離れていた。久しぶりに作品を手にしたが、期待とおり(というか期待以上)だった。

f:id:odd_hatch:20190610085416p:plain

ノックス・マシン ・・・ 2058年、上海大学の文学部の院生が当局に呼ばれた。出頭すると、開発中のタイムマシンに研究成果が使えるという。それまでタイムマシンは過去や未来に介入すると、パラレルワールドが現出してこの世界Aに帰還することができない。しかし、ノックスが探偵小説の十戒を書いた日だけはこのパラドックスが生じない特異日なのである。そこでノックスの十戒の専門家を派遣することにした。おお、1970年代で絶滅したはずのタイム・パラドックステーマが復活している。多世界解釈コペンハーゲン解釈を同時に満たす(ということはいずれとも決定できない)特異な解となる出来事を見出す。
(このアイデアよりも、探偵小説作家の作品ということで、数理文学解析に魅了される読者の方が多いかもしれない。物語を成立する方程式があり、それを利用すれば、過去作品の解析のみならず、新作や亡くなった作家の新作まで作れる。これはブラウンやドールに同じアイデアの短編があった。とくに探偵小説の中でも謎解きといわれるジャンルでは、「ノックスの十戒」が創作のみならず、ジャンルの栄枯盛衰まで説明可能なパラメーターになる。こうした科学と疑似科学の(現時点では)正確で精密に記述される。その知識をもっているものには、満足心をくすぐられる。)


引き立て役倶楽部の陰謀 ・・・ 1939年7月、名探偵を引き立ててきた「ワトソン役」が臨時の総会を開く。この年に刊行された「テン・リトル・インディアン(そして誰もいなくなった)」がワトソン役の存立基盤を破壊する問題作であったからだ。すでに12年前の「アクロイド殺し」で引き立て役倶楽部は警告を発していたが、その時の約束をA・Cは破った。倶楽部はある提案を議論した。そのさなか、一人のワトソン役が毒殺される・・・
(このパスティーシュの設定が面白い。本作の少し後に「カーテン」が書かれ、生前発表されなかった未完の作であるとする。それに編集者の注が追加される。書物やキャラクターの引用で書かれ、探偵小説の歴史が換骨奪胎される。その知的なエンターテインメント。加えて、小説の作者と小説のキャラクターが同一時空間に存在し会話するというしかけ。作品の壁を壊し、「自由」にする。こういう文学の方法も面白かった。山田正紀「僧正の積木唄」(文春文庫)と同じく、ヴァン・ダインがくそみそにけなされているのがおかしい。)


バベルの牢獄 ・・・ サイクロプロス人(もとはギリシャ神話にでてくる一つ目の巨人)にとらわれたヒューマノイドサイクロプス人の精神波動検査に対抗するため、鏡像人格とシンクロしようとする。しかし訓練で十分に実践できたはずのことができない。相手の思念は暗号のようであり、時間を逆転しているように見える。どうやって脱出するか。
(ずっと独り言。現在の状況に関する推理と思考実験。キーワードは光学異性体ワームホール。これが書物の中に顕現する。最後の謎解きを読んだ後、もう一度読み直して、その通りのできごとが起きているのを確認して驚愕する。これをやりきったのは、知る限りでは竹本健治泡坂妻夫のふたり。通常はタイトルや作中の引用でボルヘスに気を取られるだろうが、これはレッドへリングだった。)


論理蒸発-ノックス・マシン2 ・・・ 「ノックス・マシン」事件から15年後。電子テキストの貯えにあるクイーン「シャム双子の謎」が発火し周囲に延焼していく。このままでは20世紀探偵小説の「図書館」が焼失してしまう。電子図書司書部の原典管理オペレーター(電子テキストの筆者ミスや恣意的な書き換えを調査し修正する)が事件以後行方不明になった文学部研究者を探すことにする。彼を電子テキストに送りこみ、「消火」するために・・・
(こちらは映画「MATRIX」の換骨奪胎テキスト版という趣き。こちらのサイバーパンクでは、サイバースペースと物理現実の行き来は一方向で一回限りという制限がある。その別離と未帰還が「悲劇」の感情を生むことになる。さて、ここではクイーンの「読者への挑戦」が問題にされる。小説の時間順を無視する(物語が終わった後に書かれたテキストが時間軸を無視して挿入される、作中人物ではない別のレベルのナラティブが混入するなど)のはなぜか。国名シリーズのなかで「シャム双生児の謎」にだけないのはなぜか。北村薫「ニッポン硬貨の謎」(創元推理文庫)も同じ問いに答えているが、アプローチが違う。「シャム双生児」から本の連想は「チャイナ橙」「九尾の猫」「見えない人間@ブラウン神父の童心」「アレクサンドル四重奏」などに次々と飛んでいく。ミステリとは別の連想の鍵を本と本の間にかけて、思いがけない飛躍を見せるのが楽しい。)

 

 以下は本書が出た直後の自著解説。もちろん、この感想を書き終えるまでは読みません。

shoten.kadokawa.co.jp

 この本はストーリーに注目する読み方でもいいのだが、知識をたくさんもっているとより楽しめる。サイバー空間の疑似科学的な説明に、それを支える物理学の知識。文学自動生成プログラムのアイデアに、それを支える文学知識。ことに戦前の西洋探偵小説に関するトリビア。ドイル、チェスタトン、クイーン、ヴァン・ダイン、クリスティというミステリ通が必ず通過する探偵小説作家に代表作(それが新たな読み直しで、斬新な視点を与えてくれる。一度(のみならず数度)読んだ本であっても再読したくなる)。バベルや図書館のイメージから純文学の書作(ことにボルヘス)も想起する。本書の記述をきっかけとしたさまざまな連想飛躍を広げていくには知識が必要。こういう連想飛躍が小説に書かれたことよりも広がると、読者(すなわち<この私>は勝ちと思うのだが、本書では作者の勝ち。作者の広げた連想飛躍の外にはでられなかた。
 いっぽうで、「本格」探偵小説はこういうパスティーシュやパロディでしか成立しなくなったのか、ことに21世紀においてはという感も強く持つ。パーソナルな犯罪が起きて、パーソナルな探偵が捜査し、論理的な推論で謎解きをするというストーリーが単体では成立しなくなり、別の物語と組み合わせるか、寄生するかしないとリアリティとならない。20世紀前半の西洋の風俗とテクノロジーでできた社会は、読者の物理現実の延長上には存在しない。そうすると、探偵小説を成立させる場所は古典的な探偵小説の書かれた場所をテキスト化することによってしかありえない。探偵小説を語るためには探偵小説のかかれた社会を再現するしかない。探偵小説はそこまで袋小路にはいっているのか、と物悲しい気分にもなった。


法月綸太郎「密閉教室」(講談社)→ https://amzn.to/3Tnpokb
法月綸太郎「雪密室」(講談社)→ https://amzn.to/4a0Gz1h
法月綸太郎「誰彼」(講談社)→ https://amzn.to/3v0pAxp
法月綸太郎「頼子のために」(講談社)→ https://amzn.to/3P9aI6F
法月綸太郎「一の悲劇」(祥伝社)→ https://amzn.to/3uWliXO
法月綸太郎「ふたたび赤い悪夢」(講談社)→ https://amzn.to/49tW16p
法月綸太郎「二の悲劇」(祥伝社)→ https://amzn.to/3wzOAMi
法月綸太郎「法月倫太郎の新冒険」(講談社文庫)→ https://amzn.to/3ImpTFN
法月綸太郎「生首に聞いてみろ」(角川文庫)→ https://amzn.to/3uWsO53
法月綸太郎「しらみつぶしの時計」(祥伝社)→ https://amzn.to/3P7GctM
法月綸太郎「キングを探せ」(講談社文庫)→ https://amzn.to/49XU2Hd
法月綸太郎「ノックスマシン」(角川文庫)→ https://amzn.to/3uWsR0J

エドガー・A・ポー INDEX

2019/06/06 エドガー・A・ポー「ポー全集 1」(創元推理文庫)-1「壜のなかの手記」「ハンス・プファアルの無類の冒険」ほか 

2019/06/04 エドガー・A・ポー「ポー全集 1」(創元推理文庫)-2「メルッェルの将棋差し」「ペスト王」「影」ほか 

2019/06/03 エドガー・A・ポー「ポー全集 1」(創元推理文庫)-3「アッシャー家の崩壊」「ウィリアム・ウィルソン」ほか 

2019/05/31 エドガー・A・ポー「ポー全集 2」(創元推理文庫)-1「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」 

2019/05/30 エドガー・A・ポー「ポー全集 2」(創元推理文庫)-2「群集の人」ほか 

2019/05/28 エドガー・A・ポー「ポー全集 3」(創元推理文庫)-1「モルグ街の殺人」「マリー・ロジェの謎」「盗まれた手紙」 

2019/05/27 エドガー・A・ポー「ポー全集 3」(創元推理文庫)-2「赤死病の仮面」「メエルシュトレエムに呑まれて」ほか 

2019/05/24 エドガー・A・ポー「ポー全集 3」(創元推理文庫)-3「陥穿と振子」「早まった埋葬」ほか 

2019/05/23 エドガー・A・ポー「ポー全集 4」(創元推理文庫)-1「黄金虫」「黒猫」ほか 

2019/05/21 エドガー・A・ポー「ポー全集 4」(創元推理文庫)-2「シェヘラザーデの千二夜の物語」「アモンテイリャアドの酒樽」ほか 

2019/05/20 エドガー・A・ポー「ポー全集 4」(創元推理文庫)-3「アルンハイムの地所」「ランダーの別荘」ほか 

 

f:id:odd_hatch:20190603093113p:plain  f:id:odd_hatch:20190530092710p:plain

f:id:odd_hatch:20190524094804p:plain  f:id:odd_hatch:20190520091351p:plain

 

ポオ小説全集 1 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/49HO0dL
ポオ小説全集 2 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/49njCWr
ポオ小説全集 3 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/49IXXaM
ポオ小説全集 4 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/3UNbh9N
ポオ小説全集 詩と詩論 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/3I5reAM

エドガー・アラン・ポー短篇集 (ちくま文庫)→ https://amzn.to/3SPzw4G

ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫 (角川文庫) → https://amzn.to/3uQGnTo
ポー傑作選2 怪奇ミステリー編 モルグ街の殺人 (角川文庫)→ https://amzn.to/4bHGnWx
ポー傑作選3 ブラックユーモア編 Xだらけの社説 (角川文庫)→ https://amzn.to/3I5rjo4


黒猫・アッシャー家の崩壊 ポー短編集I ゴシック編 (新潮文庫)→ https://amzn.to/3uFOGBt
モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集II ミステリ編 (新潮文庫)→ https://amzn.to/3OR8lFk
大渦巻への落下・灯台 ポー短編集III SF&ファンタジー編 (新潮文庫)→ https://amzn.to/3uJNTQ3

エドガー・A・ポー「ポー全集 1」(創元推理文庫)-1「壜のなかの手記」「ハンス・プファアルの無類の冒険」ほか

 ポオの全集は高校生のときに、谷崎精二訳で全部読んだはずだが、中身の記憶がない。創元推理文庫で全集になったのは僥倖で、すぐに購入した。他の文庫と違ってカバーに豪華な紙を使っているのに、作者の権威を感じた。
 全集1巻は1830年代に書かれたものを収録。並びは、1950-60年代の研究に基づく、発表年月順。wikiをみると、いくつか異動がある(最初の作品は「壜のなかの手記」ではなく「メッツェンガーシュタイン」であるとか)。タイトルの後の発表年はwikiによる。()内はこの全集の記載に基づく。
 ポーの感想エントリーでは、映像のリンクを張っているものがある。あいにくほとんどが駄作、珍作の類。視聴にはご注意のほど。

f:id:odd_hatch:20190603093113p:plain 

壜のなかの手記 1834(1833.10) ・・・ 1831年。ジャワ島近辺を航行中の帆船が嵐にあって難破。南に流される。オーストラリア(という地名はなかったらしい)の西部を過ぎ、南氷洋にはいったとき、船は氷壁に向かっているのが分かる。ある船員が瓶に残した手記。たぶん南極大陸の存在が知られず、南の果てが巨大な崖になっていると信じられていたころの話(このあとには地球空洞説の小説もあるらしい)。ポオは海難の話が大好き。
〈追記2023/10/16〉
地球空洞説の話は「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語

ペレニス 1835.03 ・・・ 1835年。ある偏執狂の青年が、愛していなかった幼馴染の歯にフェティシズムを持つ。ある病気で癲癇を起こすようになったペレニスが死亡したと伝え聞いたとき、青年は妄念に襲われる。それ以前の青年の偏執は、古典に向けられて、神秘思想に共感していた。のちの「アッシャー家の崩壊」の前駆。

モレラ 1835.05・・・ 自分よりも優れた感受性と知性を持つ娘モレラ。彼女は「わたし」に古代から近代の神秘主義思想への導き手となった。しかし、「わたし」はモレラを心底愛することができない。そのモレラが夭逝するとき、あたしは生き続けると予言する。事実娘は成長するにつれて、モレラそっくりの容貌になり、モレラと同じまなざしを向ける。その視線に恐怖を感じる。あと輪廻(リーインカーネーション)はいつごろから唱えられた観念なのかしら。wikiだと18世紀半ばころから出たようだ。

ハンス・プファアルの無類の冒険 1835.06 ・・・ ロッテルダムの広場に、突如上空から異様なものが降りてくる。気球には人が乗っていて、手紙を落としていった(市長に砂袋が落ちるというギャグあり)。手紙には、ハンス・プファアルという鞴(ふいご)直しの不思議な冒険が書いてあった。すなわち失業して借金取りに追われる身になったプファアルは借金取りをだまして熱気球を製作。爆薬をつかって飛び立った後、なんと月にいって帰還したという。この手紙は帰郷するための資金提供の依頼のために書かれた。それ以来、プファアルの姿はようとして見えない。手紙のほとんどは、気球にのって月に行くまでの微細な技術と、上空からの地球の眺めの描写。1830年代当時の知見を総動員して科学的に記述しているが、今日的ではない。むしろ当時の正統な考えの奇矯さをみるべきか。すなわち、地球と月のサイズは小さく、月との距離もそれほど離れていないで、その間は空気が存在し、気温もほとんど下がらない。隕石は月の火山の爆発で吹き飛んだ岩が地球を目指して飛ぶもの。とくに月と地球の間にも、月にも大気があるという考えは強固で、のちのヴェルヌ「月世界旅行」1865、ドイル「毒ガス帯」1913などに継承(たしか帝国期ロシアのSFにもそういう記述があった気がする)。プファアルは月で「醜い小人」と会い、彼らの風俗・民族・社会形態や政治体制などの観察もしているがここでは割愛されている。どういうユートピアディストピア)をポオが構想したかは興味があるが、哲人政治全体主義国家になっているだろうと予感。さて、この「科学的」なレポートを読んだ後の市長他の人々の反応が面白い。彼らの多くはプファアルのレポートは詐欺であり、信用できないと考える(そのためのさまざまな証拠も挙げられる:ただし、たぶんに陰謀論的)。そのうえ「附録」(ポオが書いたものではないらしいが、ポオの考えを反映しているらしいということで全集に収録されている)ではレポートの「科学的」なところも、当時の科学書や小説の剽窃の可能性を示唆している。まあ、科学は他人の考えや意見をブラッシュアップして、新しい知見をつくるところがあるので、オリジナルである必要はないのだが、小説の後に追加されると、長い「手紙」を読んだ読者の感興を削ぐ効果になる。おまえらはレポートを「信用できる語り手」の書いたものと思い込んでるだろうが、ほれ、俺は信用ならない語り手だぜ、騙されてやんの、バーカ。そんな気分にさせられる。ポオの意図かどうかはわからないが、手紙の後のドタバタの附録の意地悪さは21世紀的。

約束ごと 1835.07 ・・・ 倦怠の街ヴェニス。夕暮れに公爵夫人の手から幼子が水路に落ちる。迫る闇でだれもがあきらめたとき、美しい青年が幼子を抱いて水からあがる。そのときに衣服は崩れ、それを見た公爵夫人は顔を赤らめる。ギリシャ彫刻のような白蝋の肌に狂乱のまなざしと「あなたは征服なさいました」となぞめく。翌日、その青年に招待された「私」は彼の収集した絵画や彫像を集める「夢の部屋」に入る。青年は葡萄酒を飲み、疲れたといって横たわるとことに、夫人が毒を飲んだとの知らせが入る。謎めいた結末の後に、タイトルを見なおして、「約束」の何ごとかを瞬時に悟ることになる(それが正しいかどうかは書かれていない)。青年の「笑いながら死ぬ」はいったいなんだったろうな。

ボンボン 1832(1835.08) ・・・ 身長3フィートのピエール・ボンボンは哲学者にして料理店主。厨房に食器や台所用品と一緒に書物が並んでいる(魅惑的な仕事場だ)。店を閉めて、出版する予定の著作に赤を入れようとしたら悪魔(目がない)がやってきた。古今東西の哲学者の言葉は俺が書いたのだと豪語し、学説を味にたとえる。ボンボンは悪魔のおしゃべりをききながら、葡萄酒を飲み続ける。プリア・サヴァラン「美味礼賛」はもうアメリカに知られていたのかな。悪魔との会話は手塚治虫「ネオ・ファウスト」(遺作)を思い出した。


 思い返せば、1830年代は知的な娯楽が極めて少ない。21世紀のわれわれが特に意識することなく消費しているもの、マンガ、アニメ、写真、映画、テレビ、ラジオ、録音媒体などなど、はない。せいぜい本と雑誌。それも極めて流通が悪く、新刊はなかなか手に入らないし、所蔵しているものもわずかだ。古典や現代の音楽はコンサートでしか聞くことができない(うまくいけば家族の演奏会に招待されるかもしれないが。
 でも、オタク的な情熱はどの時代の人にもあったと見え、人々は細部までこねくり回して楽しんだ、そのときに熱中したのが宗教と哲学。このテキストで書かれた難解な文章に対して、人々はオタク的想像力を発揮した。ヨハネ黙示録の世界の終りの描写に、神秘思想家の生と死の観念に、あるいは悪魔や天使の風貌に。そういう知的情熱の発揮が、この19世紀前半の小説にある。語り手の会う人々は一様にさまざまな書物を読み、さまざまな想念・妄想をもっている。夜の深い闇(油のランプかロウソクの光のみ)に想像力は翼を広げ、歴史の人物は闇の中に実体化する、
 そういうところでポオの小説が書かれていることに注意。

 

ポオ小説全集 1 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/49HO0dL
ポオ小説全集 2 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/49njCWr
ポオ小説全集 3 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/49IXXaM
ポオ小説全集 4 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/3UNbh9N
ポオ小説全集 詩と詩論 (創元推理文庫)→ https://amzn.to/3I5reAM

エドガー・アラン・ポー短篇集 (ちくま文庫)→ https://amzn.to/3SPzw4G

ポー傑作選1 ゴシックホラー編 黒猫 (角川文庫) → https://amzn.to/3uQGnTo
ポー傑作選2 怪奇ミステリー編 モルグ街の殺人 (角川文庫)→ https://amzn.to/4bHGnWx
ポー傑作選3 ブラックユーモア編 Xだらけの社説 (角川文庫)→ https://amzn.to/3I5rjo4


黒猫・アッシャー家の崩壊 ポー短編集I ゴシック編 (新潮文庫)→ https://amzn.to/3uFOGBt
モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集II ミステリ編 (新潮文庫)→ https://amzn.to/3OR8lFk
大渦巻への落下・灯台 ポー短編集III SF&ファンタジー編 (新潮文庫)→ https://amzn.to/3uJNTQ3