odd_hatchの読書ノート

エントリーは2600を超えているので、記事一覧よりもカテゴリー「INDEX」をご覧ください。2021/9/25

佐倉統「進化論という考えかた」(講談社現代新書)

 自分の進化論の知識は1980年までで途絶えている(そのあとに紹介されたビッグネーム、たとえばドーキンス、グールド、ウィルソンなどを読んでいない)ので、手ごろな新書で補完することにする。著者・佐倉統はたとえば別冊宝島「進化論で愉しむ本」で名前は知っていた。読むのは初めて。

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 20世紀の進化論の推移は最初の章で概観される。ダーウィン種の起源」は進化論の基本的な考えを示す。ダーウィンは個体の形質や種について進化が成り立つとしたが、20世紀の生物学者は進化の概念を拡張した。その結果、新しい学問が生まれる。動物の行動の進化を探る動物行動学、生態の進化を見る社会生物学ダーウィンが遺伝因子と概念だけを提示していたのを実態として明らかにする分子生物学、個体から遺伝子プールに主役を変えて動態を見る集団遺伝学など。さらに、情報理論などの生物学以外の学問成果を取り入れる学際的な方法が取り入れられたりする。自分なりに要約すると、進化論を遺伝子の情報伝達システムやアルゴリズムとみるなど形式化を徹底し、コンピューターやAIなどに解析するなど大量のデータを処理して観察能力を飛躍的に向上させた。それらは進化論を生物に限定するのではなく、系統を作るものなら何でも進化論のエッセンス(突然変異、適応、自己複製)で説明可能であると考えるようになった。なので、言語や法律や音楽のみならず文化現象までも進化論で説明することを検討しようとしている。
 進化を遺伝子による情報伝達であると見ることによって、全体論有機体論と還元論・機械論の対立を解消する新しい見方を提供するというのだ。ゲーテやヘッケルのように統一する試みがあったが、過去のはオカルトや神秘主義が入っていたからね。情報とみなすことで、普遍的で明解な記号で記述することができるから神秘主義がはいりこむことは(たぶんそうそうには)ない。
 そこから著者は、理学と人文学と架橋した新しい文化ができることを構想する。というのは、哲学・思想の思弁はたくさんの情報を持っていたが、20世紀後半には科学のほうが情報を持つようになり、これまで人文学が対象にしていたできごと(例えば文化)を科学が記述する試みがあり、成果を上げているから。これまで理学と人文学の架橋は科学哲学が行ってきたが、論理実証主義ポパー)と歴史主義(クーン)では不十分。でも、上のような進化論の進化によって自然主義でやっていけるのではないか、著者は構想する。とはいえ、自然主義は人間優位主義や擬人化などを持ち込んで、差別や戦争を肯定する論理に使われた過去がある。そうならないためには学問と研究者は多分野への関心と自然への謙虚が必要という。
 まあ、第三の文化や「センス・オブ・ワンダー」という理学と人文学の架橋の試みはやっていいのでは? どのくらいの知を創り出すかお手並み拝見、という気分。でも著者のような楽観はとれない。すなわち、311とコロナ禍の体験は、理学と人文学の架橋ができるどころか、人々の分断を招いてしまった。科学者・研究者の通訳不可能性や、科学者の他分野への無知、人文学者の科学の誤解、メディアのリテラシー不足、政治家による権益の恣意的な配分、デマゴギーの発生と一定数の支持者の存在、大衆の無理解など。単純化すると、学者にも政治家にもメディアにも大衆にもバカがいるということだ。そのバカが事態をひっかきまわして、分断を広げ、差別と格差を拡大した。ここを改善しようとする動きはあるような、ないような。とても心もとない状況になっている。
 それに研究者など関係者を縛る倫理が「多分野への関心と自然への謙虚」というのは全く不足。これでは差別や戦争の肯定、格差の拡大の放置などを防ぐ手段にはならない。国家や企業などの権力の命令に従わない根拠を作れないからだ。俺が考えるには、自然主義を実行するには正義と善を理解することが必須。どうして正義と善が必要かは以下のエントリーを参照。
2019/07/04 斉藤孝「読書力」(岩波新書) 2002年
2019/07/05 外山滋比古「思考の整理学」(ちくま文庫) 1983年
 自戒を込めて言うけど、戦後生まれの日本の人々は教養が欠けていて、正義や善の考えが足りない。だから書いたものがいつも物足りなく思うのだ。

 

 

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 著者のエルンスト・ヘッケル評価。最近ヘッケルが持ち上げられすぎ。彼の進化論はトンデモです。

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